第83章 憧れの人
アジトに戻り、自室で次の任務のメールを確認する。
『NOCリストね……』
公安に潜り込んでそのデータを奪ってくるだなんて……こんなところでアイリッシュがくれたデータが役に立つとは思わなかった。
『はぁ……』
ポアロでの会話を思い出しため息をついた。
私なんて、憧れてもらえるような人間ではないのに。それでも良いとは言っていたけど、犯罪者であることを知ったら少なからず失望されるだろう。もし、そうなってしまったらきっともう彼女達には会えない。いや、もう会うべきではないのだろうけど。彼女達の好意を無下にもできない。
『……どこにしまったっけ』
2人を助けたあの日着ていたドレスのことをふと思い出した。自室のクローゼットを開けて探してみるも、見当たらない。ここにないなら……ジンの部屋にあるだろうか。あっちの部屋に置かせてもらってるのは一度着たものばかりだし。
引き出しから鍵を取り出してジンの部屋へ向かった。
『ん?』
ジンの部屋のドアを開けると、フワリとタバコのにおいがした。吸殻は残ってないけど、でもこの感じはたぶん少し前までこの部屋にいたんだろう。もしかしたらまた戻ってくるかもしれないし、目当てのドレスを見つけてさっさと出ていこう。
変装を解かないまま来てしまったし、この状態でジンに会えばまた不機嫌にさせてしまう。
クローゼットを開けて探すと奥の方に探していた物を見つけた。そして、部屋をぐるりと見回して、ベッドの上に視線が止まった。枕の上に何か置いてある。気になってしまって、それを拾い上げた。
それは、写真だった。それを見てドレスを持っていた手から力が抜けて、ドレスが床に落ちた。
『私……?違う、誰これ……?』
写っていたのは、変装した私によく似た女性。隠し撮りなのか視線はこちらに向いてないけど、でもとても綺麗に撮られている。裏返して見ると文字が書かれていた。
「Fino……フィノ?」
どこかで聞いた覚えがある。どこだっけ、誰に聞いたっけ……。
『……アイリッシュだ』
最後にアイリッシュに会いに行った時だ。変装した姿で行ったらそう呼ばれた。その後直ぐに変装を解くように言われた。
心臓の音がうるさい。嫌な汗がじわりと浮かんでくる。
この人はいったい何者なのか……知りたいけど、知るのが怖い。
「おい」
『ひっ……』