第82章 子供の頃のアダ名
「もしも、彼女が奴らの仲間だとしたら……」
「……でも、それだと変なんだ!亜夜さん、ベルツリー急行にも乗ってたんだけど、そもそも園子姉ちゃんが誘わなきゃ来なかったみたいだし……灰原にだって手を出さなかった!」
「ほぉ……」
そう零した昴さん……の姿をした赤井さんは笑みを深くした。
「あの少女に手を出さなかったのなら、俺の思う女である可能性は高くなったな」
「……え?それってどういう……」
「ひとまずどうにかしなければならないのはバーボンだ。そのために策を練りに来たのだろう?」
「……そうだね」
その後しばらくは策を練るのに頭を動かした。両親と博士の協力も得られることになったし、これならばうまく行くはずだ。
「……浮かない顔だな」
「うん……ちょっとまだ受け入れにくくて」
「彼女のことか」
「ねえ、その赤井さんが思う女の人の写真とかないの?」
「……あるにはあるが、奴らの情報を引き出すのは俺でも簡単ではなくてな」
「そっか……」
「俺が探りを入れる。確信を得たらボウヤにも伝えるさ。くれぐれも自分で探ろうとするなよ」
「そんなに危険な人なの?」
「……彼女が、と言うよりその周囲だな」
「どういうこと?」
「あの女に何かあれば組織全体が動きかねないということだ」
「……え?」
背筋がスっと冷たくなった。確信がないとはいえ、そんな人が近づいて来ているかもしれない。蘭や子供達が危険に晒されるかもしれないと思うと焦りは大きくなる一方だった。
「そんなに上の人間なの?」
「いや、地位の問題ではない。あの女自身は組織に似合わず情が深いところがある。が、あの女をいたく気に入ってる奴がいる。下手に手を出せば消されるぞ」
「奴ってまさか……」
「ああ、ジンだ」
心臓が大きく音を立てた。冷や汗がじわっと吹き出して指先が冷たくなっていく。
「そ、その人って、コードネームは……」
「知りたいか?」
赤井さんの声に小さく頷いた。
「その女のコードネームは……マティーニ」
マティーニ……ジンと、ベルモットの酒の名前か。
「一応言っておくが、博士の所の彼女にその名前は聞かせるなよ」
「わかってる……」
危険人物であることはわかった。が、疑問も膨らんでいくばかりだ。
もし組織の人間だとして……なぜ灰原を……。