第82章 子供の頃のアダ名
ナースステーションにいた看護師に聞いても、誰も楠田のことを知らないらしい。
「あれ?毛利先生じゃないですか!」
他に知っている人がいればと、廊下を歩いていくと毛利小五郎とコナン君がいた。バーボンは平然と声をかけて近づいていく。
「何してるんです?どこか具合でも悪いんですか?」
「ちょっと女房がな……お前はなんでここに?って、亜夜ちゃんもいたのか?」
『ええ、私は付き添いなんですけど……』
「知り合いが入院しているって聞いて見舞いに来たんですが、いつの間にかいなくなっていたみたいで……コナン君は前にもここに来たことがあるって看護師さん達が言ってたけど、知ってるかな?楠田陸道って男……」
「誰?それ……知らないよ?」
「実はその男にお金貸してて返して欲しいんだけど……本当に知らないかい?」
「うん!」
「すごいね君は……」
バーボンはそう言って不敵に笑った。そして、ほかの見舞い客にも声をかけていく。どうやら、何か意図がある……という考えは当たっていたようで。バーボン曰く、人は自分の記憶に絶対的な自信はなく、普通は否定より先にその他の情報を得ようとする……だから、知らないと断言できるコナン君はすごい、ということらしいが。
「ガキの言う事を真に受けるなよ……会った事があっても名前を知らない奴はザラにいるし……アダ名とかでしか知らねぇ奴もいるからよ……」
『そうですよね……楠田なんてあまり聞かない名前だし、一度聞いたら印象に残ると思うなぁ』
そう言うとバーボンがほんの少し目を細めた。それに気づかないフリをしてコナン君の目の前にしゃがみこむ。
『ごめんね。たぶんその人に結構な額貸したみたいでさ……ちょっとピリピリしてるのかも』
「あ、ううん、大丈夫……それより亜夜さんはその人の知り合いなの?」
『知らないよ』
「じゃあ、どうしてここに?」
『ちょっと彼に用があって……どうしてもここに寄りたいって言うから着いてきたの。車の中でただ待たされるのも嫌だったし、女がいたらちょっとは有利かなって』
「へ、へぇ……」
「……ゼロー!」
エレベーターを待っていた男の子がそう声を上げた。同時にバーボンがビクリと肩を震わせる。
「ん?どうかしたか?」
「あ、いえ……僕のアダ名も"ゼロ"だったので呼ばれたのかと……」