第81章 再調査
『あー、もう……』
数分おきに鳴るスマホに嫌気がさす。表示される番号はずっと同じ、ジンのものだ。まあ、原因はわかってるんだけど。
昨日、ベルツリー急行の一件で事情聴取を受けた後、バスで東京駅まで戻ってきた。蘭ちゃん達に食事に誘われたけど、気疲れと眠さを理由にそこで分かれた。そして、泊まっていたホテルに戻り早々にジンへ電話をしたのだ。しばらく帰らない、そう言って電話を切れば次の瞬間にかけ直してきた。真夜中に一度それはやんだが、夜が明けてまた……電源を落としたら必要な連絡を見逃すかもしれないし。
にしても、しつこすぎる。電話に出たら上手く丸め込まれそうで嫌なんだけど……言わないと諦めないよなぁ。
再びなり始めたスマホを持ち上げて、大きく深呼吸をする。そして、通話ボタンを押して耳に当てた。
『……』
「……」
そっちからかけてきたくせに無言かよ……聞こえるように大きくため息をついてゆっくり口を開いた。
『……何?』
「どういうつもりだ」
『何が?』
「……いつ戻る」
『さあ?』
「てめぇ……」
ミシッと嫌な音が聞こえた。ずいぶんお怒りのようだ。でも、さすがにそれには私だってイラッとする。もし、あの少年がいなかったら……志保は死んでたかもしれないんだから。
今は、演じなければ。志保が死んだと思っていると、ジンに認識させなければ。
『……怒りたいのはこっちなんだけど?』
「……あ?」
『一切の前情報もなく、急にシェリーを殺ったなんて聞いて冷静でいられると思うの?』
「裏切り者を消すことの何が問題だ」
『私とあの子の仲を知らないとは言わせないわ……できることなら、その件に関わったベルモットやバーボンも消してやりたいくらいよ』
「……」
『そっちに戻って正気を失うのは嫌だから。必要な連絡はメールでして。落ち着いたら戻る』
「……勝手にしろ」
『それと、今回のシェリーのことも絶対に許さない』
そう言って電話を切る。スマホはベッドに投げて、私もそこへ倒れ込んだ。静かになったスマホを見て一息。もう不要な電話は来ないだろう。
電話でよかったのかも……面と向かって話してたら表情でバレた気がする。ベルモットとバーボンを傷つける気はない……今のところはだが。
でも、許さないというのは紛れもない本心だ。