第80章 漆黒の特急
微妙な雰囲気をまとったまま列車を降りた。
「亜夜さん!」
「どこにいたんですか?!前の車両にいなかったからすごく心配で……あ、これ亜夜さんのバッグです」
『ああ、心配かけてごめんね……でも、大丈夫よ。バッグもありがとう。助かったわ。その帽子って真純ちゃんの?』
「はい。廊下で拾ったんです。後で渡そうと思って」
あの子はきっと無事だろう。ベルモットは不要な殺しはしないから。
視線を上げると阿笠さんにおぶわれた哀ちゃんが見えた。
よかった、本当によかった……きっとベルモットは上手くいったと思ってるだろうし、それなら組織の目はもう志保に向かないだろう。そういう意味では都合がいい。許すことはしないけど。
「あーあ、ガッカリよ……これでキッド様来られなくなっちゃったしぃ……」
「この列車、現場検証で当分使えないしね……」
『そうね、残念。ちょっと楽しみだったのに』
不満げに肩を落とす園子ちゃんは本気で楽しみにしていたみたい。申し訳ないな……。
『おっ、と……』
目の前に佇んでた女性に気づくのが遅れた。慌てて避けたが向けられた視線に足を止める。
帽子にサングラス。髪は綺麗に結われていて、口紅の色も違う。でも、変装マスクではないからすぐにわかる。ベルモットだ……彼女も私に気づいて目を見開いた。
「亜夜さん?」
『先に行ってて!すぐ追いつくから!』
彼女達への言い訳は後でいい。ここで釘を刺しておかないと。顔は正面に向けたままゆっくり口を開いた。
『……上手くいったのかしら?』
「邪魔をするなと……」
『あら、私は何もしてないわ。恨むならあの少年を恨んで』
この感じはきっと志保が生きていることに気づいているんだろう。でも、きっとそれは誰にも伝えられないはずだ。言い出せば薬のことがバレかねない。
『まあ、一時的にあの子から組織の目を逸らせるようだし……そういう意味では助かったわ。でも、次はないわよ』
「っ……」
『それじゃ』
私も数日間の身の振り方を考えないとな……志保が死んだのに平然としているのは絶対に目につく。特にジンに気づかれるのはまずい。しばらくアジトに戻るのはやめておこう。
そして、コナン君のことも。疑いの目を向けられているし……少しの間ポアロに行くのはやめるか。