第78章 甘い※
モヤモヤと考えているとジンは帰ってきた。
『……おかえり』
「……」
かなり不機嫌だ。取引って言ってたのに、その取引相手が余程の馬鹿だったんだろうか……ジンはコートと帽子をソファへ脱ぎ捨ててバスルームへ入っていった。
仕方ない。もう寝るつもりでベッドに寝転んでいたのだが、起き上がってベッドからおりる。そして、コートと帽子を拾って掛けておく。
『……ん』
ジンのコートからタバコの匂いに混じって、硝煙の匂いがした。何があったのか、聞いてもいいんだろうか。
「……おい」
背後からの声に振り返る。そこにはバスローブだけ身につけたジンの姿。やっぱり、不機嫌だし顔色もあまり良くない気がする。
『大丈夫?何があったのか聞いてもいい?』
ジンの方へ歩み寄ってその顔に手を伸ばす。が、触れる直前で伸ばした手を掴まれ、そのまま強く引かれる。ジンの胸元に抱え込まれるようにして、緩く抱き締められる。私もジンの背中に手を回して、その背をぽんぽんとあやすようにして撫でた。
『無理に聞くことはしないけど、できることがあるなら言って』
そう言うと、少しだけ雰囲気が和らぐ。
『今日はもう寝よう?疲れたでしょ?』
ジンから離れて下から顔を覗き込む。表情は変わらないが、たぶんそうした方がいい。ジンの手を取ってそっと引けばついてくる。ベッドに促せばすぐに寝転がった。私も同じようにその隣へ寝転ぶ。
ジンの手が伸びてきて髪を梳く。そして、輪郭をなぞりながら耳から首へ手がおりて……首筋で止まった。ジンの目がスっ……と細められる。
『ジン?』
また雰囲気が張り詰めていく。何かあっただろうか……と考えたところでジンが覆い被さってきた。
「……これは」
そう言って首の一点を強く押される。そして、首筋にジンの顔が寄せられたかと思えば、強く吸いつかれた。
『っ……』
バーボンに付けられたキスマークのことをすっかり忘れていた。ジンはその上から吸い付いたんだろう。
『ちが、これは……』
「……浮かれていたのはあの野郎のせいか」
『ちがう、たまたま会って……』
「たまたま会っただけなら、どうしてキスマークなんざ付けられるんだろうな?」
『っ、いた……っ』
今度は思いっきり噛みつかれる。皮膚が切れるような感覚がして、ピリピリと痛み始めた。