第76章 ホームズの弟子
フッ、と鼻で笑いながら言うと頭の真横でジャキッと音がした。
『あら、物騒ね』
「これ以上怒らせないでもらえるかしら」
『ふふっ、図星か……気になるわ。貴女の秘密』
「黙れって言ってるのよ」
バーボンに握られた弱みはよっぽどのものらしい。秘密主義のベルモットの情報を掴むなんて……その情報網がどうなってるのか是非教えてもらいたいものだ。
『今聞くことはしないけど……まあ、この先の貴女の動きにもよるかもね』
「……」
『私のことも怒らせないでね』
ホテルのロータリーに車を止める。ベルモットはさっさとおりて行った。入口に向かっていくのを見送って車を出す。
きっとここまで言ってもベルモットはシェリーを消そうとする。おそらく、自分の手を使わない方法で。彼女のことは好きだけど、この件に関しては許せない。
にしても……シェリーの情報を手にいれるのは、いくらバーボンでも手こずるはずだ。あの子が迂闊な行動をするわけがないし、そもそも名前も姿も違う。
だとするならば、それを知ってるベルモットが何かしらの手助けをするだろう。でも、姿が違うことを伝えれば江戸川コナンのこともバレる可能性がある。
それを避けるには……解毒剤を使わせ、元の姿に戻らせるような状況を作り出すしかない。
『ふぅ……』
駄目だ、これ以上考えると頭が痛くなる。幸い、こちらの方が知っていることは多いのだ。最悪の場合、私が正体を明かしそれをあの子が受け入れてくれるなら、どこか遠くへ逃がすことだってできる。
もう少し、子供達に近づかないと。その距離を測り損ねないように気をつけながら。
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自室に戻ったが、まだジンは戻っていないようだ。運転しただけだから体は大したことないんだけど、気力は尽きそう。結構な殺気と怒気を向けられていたし……あの場でこちらが折れてしまうわけにもいかなかったから、平気なフリをしていたけど。長い間、こんな世界で生きていればそのくらいの能力は身につく。つくづく自分は普通の人間ではないんだと感じる。
……近いうちにまたポアロへ行こう。アイスコーヒーとケーキでも食べよう。梓さんにも会いたいし……夕方頃行けば蘭ちゃんや園子ちゃんに会えるかもしれない。あの少年に会ったらホームズの弟子って少しだけからかってもいいかもしれない。
ほんの束の間の幸せを感じたい。それだけだ。