第76章 ホームズの弟子
バーボンの部屋に押しかけて以降も、シェリーに関する情報は入ってこない。そもそも見つかっていないならそれでいいんだけど、何か手がかりを掴んでいるのに情報を流してきていない……その可能性もある。
今日、ジンはウォッカと一緒に出ているし、ベルモットも任務で今は海外にいるらしい。何でも、誰かを消しに行くらしい。確かイギリスだったか?対象の名前聞かなかったな……帰ってきたらそれとなく聞いてみよう。
シャワーを浴び終えて、体にタオルを巻いたまま部屋へ戻る。冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出してキャップをひねった。
特に何か見たいわけでもないが、テレビを付けてチャンネルを変える。そして、あるチャンネルで指を止めた。
『ウインブルドン……だっけ?』
テニスのことは一般常識程度しか知らない。画面に映っている女が芝の女王と呼ばれている、ミネルバ・グラスだということはわかるが。そして、実況者曰く女王は調子が悪いらしい。実際、今のラリーで第一セットは取られてしまったようだ。
私は濡れた髪を拭きながらペットボトルを傾ける。
「Minerva!」
その時聞こえてきた声に視線だけテレビへ向ける。歓声とも違うその声に聞き覚えがあったから。
「I'll help you ! I'm a Holmes'apprentice!」
『ぶはっ!』
飲んでいた水を吐き出しかけた。
何でもあの少年がイギリスにいるんだ?!しかも、ホームズの弟子って何を言ってるの?!
『ゲホッ、はあ……』
むせるのを抑えながらテレビを見る。もうあの少年は映っていない。何度か呼吸をして考えた。
あの少年はどうやって出国したんだ?今、あの少年は江戸川コナンで、工藤新一ではない。江戸川コナンは存在しない人間だし、パスポートなどの身分証は作れないはず。
だとするならば、解毒剤か……一時的に薬で工藤新一に姿を戻して入国し、薬が切れている間は江戸川コナンとして過ごしているのだろう。
テレビを消して、パソコンを開く。足がつかないように気をつけながら航空会社のデータベースにアクセス。そこにはやはり江戸川コナンの名前はない。あったのは工藤新一だ。それから毛利小五郎、毛利蘭、阿笠博士……もしかして、と思いそれからしばらく調べたが、宮野志保と灰原哀の名前はなかった。