第73章 隠す者達
とある雪の降る日。バーボンに呼び出された。どうやら本格的にあの赤井の姿で町に出るらしい。
任務もないし、ちょっと気になるし……そう思って、私もいつものように顔を変える。さっさと駐車場におりて自分の車に乗った。
近場のパーキングに車を止めてバーボンに連絡をいれる。もちろん、声は出せないだろうからメールで。ほんの少しだけ窓を開けてタバコに火をつけて待つ。
数分後、助手席側の窓がノックされて視線を向けた。変装だとわかっていても、ちょっとドキッとする。バーボンは傘をたたんでスっと乗り込んできた。
『……あら、ニット帽じゃないのね』
「貴女もそう言うんですか」
『ベルモットにも言われた?せっかく完璧な変装なのに』
煙をゆっくりと吐き出しながら、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
『それで、策はあるの?』
「ただ町をうろつくだけです」
『……私が呼ばれた理由は?』
「会いたかった、だけじゃ駄目ですか?」
『……』
舌打ちしたいのをどうにか堪えてポケットの中を探る。手に取ったそれをバーボンの襟の裏につけた。
「……何を?」
『盗聴器。せっかくなんだし聞かせてよ。ちょっと気になるから。面白いこと聞けるかもしれないでしょ?』
「……何かあったら助けてくださいね」
『努力はするわ』
私がそう言うとバーボンは車のドアに手をかけた。が、一度振り返る。
「もし、余裕があるなら車の移動をおすすめします」
『なんでよ』
「FBIもこの近くにいるようですから」
そう言ってバーボンが示す先には……ああ、あの車ってFBIのだっけ。この顔はまだ大丈夫かもしれないけど、車は間違いなく知られてる。乗り換える?でも、気に入ってるしなぁ……渋々エンジンをかけた。
「それでは」
バーボンは傘をさして行ってしまった。少し時間を空けてその駐車場を出る。
しかし、まあ……天気のせいか空いてるところが見つからない。盗聴器から聞こえてくる音も環境音ばかりだし。
『……あった』
やっと見つけた駐車場に車を止める。エンジンを切ってすぐ、盗聴器から叫ぶような声が聞こえた。
「……待って。シュウ!シュウ!」
この声、ジョディ・スターリング?
すぐに声は聞こえなくなったが……もし、あれが演技なら女優に転職しても食べていけるんじゃない?