第72章 紙飛行機の謎
『……ってことがあってね。まあ、犯人は結局自殺したらしいんだけど。監禁されてた社長も回復して……あれ?』
とある廃ビルの部屋。拘束され椅子に縛り付けられた男の正面に座っている。静かな空間が嫌で、つい先日の紙飛行機の一件を話していたのだが……目の前にいる男がピクリとも動かなくなった。首を傾げながら、そっと立ち上がって男の方へ歩み寄る。
『あー、早かったな』
今日で3日目。飲まず食わずだったこの男の体はガリガリに細くなっている。完全に脈が止まっているのを確認してジンに電話をかける。
『もしもし』
「……死んだか」
『うん。処理班回して』
それだけ伝えると切れた電話に小さくため息をついて部屋を出た。
ビルの影から処理班が来たのを確認してその場所を去る。少し離れたところに止めた車に乗り込んだ。
必要な情報は抜き出しただろうし、そのまま消してしまえばよかったのに……確かに飛び散った血の跡とか消すのは手間だけどさぁ。そうじゃなくても、他に何か方法はあっただろうに。こんなお守りみたいな、ただ時間が無駄になるような仕事を回すのやめてほしい。
助手席においた本をチラリと見る。闇の男爵(ナイト・バロン)……タイトルこそ知っていたけど、読んだことがなかった。幸か不幸か工藤家に入る機会があったわけで、せっかくだからと買ってみた。
面白いとは思う。今まで読んできた推理小説全てに言えることだが探偵や警察など、所謂正義の側の人間の感情には共感できない。
先日の紙飛行機の一件も、暗号を解くのは悪くなかった。でも、そこに正義感なんてものはない。ただ、面白いそうだった。それだけだ。
誰かの残した証拠を頼りに、被害者のそれも見知らぬ人のためにそれを解き明かす。その感覚にどうすれば共感できるのだろう。
私は普段、そういうものを隠す側の人間だ。痕跡を消し、一切の足跡を残さない。暴かれるかも、という考えはもちろんある。が、基本的に警察は証拠がなければ動かない。だからこそ、謎を解こうとする探偵は厄介だ。
にしても、あの男……沖矢昴は何者なんだろう。あの少年が持っているかもしれない変声機の件も含め、探りを入れないと。こんなこと組織の人間に頼むことはできないし、時間はかかるだろうけど。
どちらにせよ、また近いうちに会える気がする。この手の勘はよく当たるから。