第71章 執念
『はぁ?』
「誰に会っても会話してやる義理はありませんし……無言を貫いていれば、事故の後遺症か何かで口が聞けず、反応がなければ記憶に障害があると認識させられます」
『……』
本気なんだなぁ……もし、呻き声とか出してしまったとしても、それだけじゃ誰か判断できないか。
『話はそれだけ?』
「ええ」
『……もし、本当に赤井が生きているとなったらすぐに報告するのよ』
「ええ」
そうはなって欲しくない。赤井が生きていたとしたら、まず消されるのはキールだ。
『……じゃあ帰る』
「泊まっていっていいですよ」
『いい。帰る』
きっと、ジンはキャンティから私がバーボンに呼び出されたことは聞いてしまっているだろうし、そうなると後々が怖い……来てしまった時点でアウトかもしれない。
「送りましょうか?」
『……さっき迎えは無理って言ったじゃない』
「あの顔で迎えに行ったら貴女どうしましたか?」
『……』
ジロっとバーボンを睨み部屋の出口に向かって歩く。すると、スっと伸びてきた腕が肩の前に回されて引き寄せられた。勢いを殺せず、そのまま背中がバーボンの胸に当たった。
「……ずいぶんな独占欲ですね」
私の髪を白い手が避けていく。そして、首元に吐息がかかった。
「……どうしてジンなんですか」
『どうしてって……』
「本当に好きなんですか?」
『好きだよ。なんでそんなこと聞くの?』
「僕のものになって欲しいからですかね」
『馬鹿なこと言わないで……っ』
首にそっとキスをされた。思わず体を固くする。
「……僕は本気ですよ」
---
「しばらくはあの部屋にいる予定なので、何かあったら来てください」
『何もないわよ』
「何もなくても歓迎しますよ」
『……』
返事をしなければ車内は静かになる。
変装したバーボンに驚かされて、キールとバーボンが危険な目にあわないための予防線と最後のキス……顔がいいからって何でも許されると思うなよ。
口説かれそうになったことは何度かある。任務によってはそれがメインだったりもする。でも、バーボンが相手だとなんか調子が狂う。そろそろ諦めてほしい。
ぼーっと外を眺めていると、信号で車が止まる。
『……あ』
「どうしました?」
『えっ、いや、別に……』
対向車線につい先日の赤い車を見つけたのは黙っておこう。