第68章 漆黒の追跡者
「だから動きがいちいちでか過ぎるんだって言ってんだろ」
『だってそうしないと威力あがらないもん』
「コツがあるんだよ。チビだし細いし仕方ねえな。まあ、一般人相手なら問題ねえ」
『馬鹿にしないでよ!もう一回!』
急な呼び出しがあったとかでアイリッシュがアジトに来ると連絡があったのは昨日の真夜中。少しなら時間が取れるとかで、久々に体術の手合わせ……一回も勝てない。
『あー!もう一回!』
「うるせえ。体力底なしか」
『あっ、逃げるの?!』
「チッ……あと一回だけだからな」
その一回も簡単にあしらわれて終わり。こっちは本気なのに。
「その動きは無駄が多いって言ってんだよ。それ直さねえと狭いところでやり合う時困るぞ」
『……じゃあ、そのコツっていうの教えてよ』
「自分でやんなきゃ覚えねえだろうが」
『ケチ!』
「言ってろ」
椅子に座り込んだアイリッシュ。ムッとしながらもその隣に腰をおろした。
『何の任務なの?』
「NOCリストの話は聞いたろ。持ってる奴を消して奪ってこいだとよ」
『へえ、アイリッシュがやるんだ』
そう言って水を口に流し込んだ。すると、聞こえた着信音。これは私のじゃないな……アイリッシュの?
『誰?』
「……ジン」
妙な胸騒ぎがする。とても嫌なことが起こりそうな、そんな気がする。
「……何の用だ」
通話を始めたアイリッシュの声は、先程までとは全く違う明らかに不機嫌な声。そういえば、ジンとアイリッシュは仲が悪い。そうなったきっかけは聞いたことがないけど……ピスコの一件で更に険悪になった。
「あ?死んだだと?」
そんな声が聞こえた数秒後。通話が終わったらしく、アイリッシュは大きな舌打ちをした。
『どうしたの?』
「消す予定だった奴が別の人間に殺られた。おまけにデータの入ったメモリーカードの行方もわからねえときたもんだ」
『そんな……』
どこかで恨みでも買ってたんだろうか……別に死んだこと自体が問題ではない。問題は持ち去られたメモリーカードの行方だ。もし、殺したヤツが警察に捕まれば、そのメモリーカードの中身もきっと……。
「おい、行くぞ」
『えっ、あ、どこ行くの?』
「計画の練り直しだ」
『ちょ、待ってよ……!』
さっさと歩き出したアイリッシュの後を慌てて追いかけた。