第67章 他人の空似
ドアを開けると、心地よいベルの音が響く。
「あ!亜夜さん!いらっしゃいませ〜、好きなところどうぞ〜」
『こんにちは。えっと……』
梓さんの声に店内を見回すと……蘭ちゃんと園子ちゃんだ。
「あ!亜夜さん!」
「こんにちは!よかったら一緒にどうですか?」
『いいの?じゃあお言葉に甘えて』
そう言って2人のいる席に座った。今日はアイスコーヒーだけを注文。
話題はもちろん2人の学校でのこと。試験がどうとか噂話、もちろん恋愛の話も。私は聞いて相槌を打つだけなんだけど、それでも楽しい。
「亜夜さんの学生時代ってどんな感じだったんですか?」
『私?えっと……聞いても面白くないと思うけど……』
「気になりますよ〜絶対モテモテだったんでしょうね……」
私に学生時代なんてものは存在しないし、だからといって変に話を捏造してもなぁ……。
『うーん、ごめんね。あんまりいい思い出ないの』
困り顔でそう答えると、2人は納得したのかそれ以上何かを聞かれることはなかった。流行とかなら調べればある程度話にはついていけるけど、経験のないものは下手に話せない。
「にしても、あのドジっ子がいないと本当に静かね……」
『ドジっ子?』
「あ、本堂瑛祐君っていう……この間まで私達のクラスにいた転校生なんですけど。事情があってまた転校していって……亜夜さんは会ってないですよね?写真あったかな……」
蘭ちゃんはそう言って携帯を見始めた。
本堂……この名前どこかで……。
「なんかお姉さんを探してたみたいなんですけど……そのお姉さん、アナウンサーの水無怜奈にそっくりで!」
水無怜奈……キールにそっくりな子?
『あっ……』
思わず声が漏れた。そうだ、キールを尋問した男だ。死んだその男に駆け寄ったヤツがそう呼んでたって……。
「でも瑛祐君、他人の空似だって言ってたし……それに、お姉さんと水無怜奈は絶対に別人だって……亜夜さん?」
『……ん?あ、何?』
「大丈夫ですか?怖い顔してましたけど……」
『だ、大丈夫……』
表情を取り繕ったけど、その後の会話はほとんど入って来なかった。
本当は今すぐここを出てキールに話を聞きたい。でも、この雰囲気を壊すのも気が引ける。そう思って氷が溶けて薄くなってきたアイスコーヒーを飲み干した。