第64章 ブラックインパクト
FBI side―
タバコに火をつけて、脇に挟んでおいた紙の束を再び眺め始める。
「やっと見つけた……」
屋上の扉が開いたかと思えば、ジョディが呆れたような顔を覗かせた。
「少しくらい我慢したら?吸いすぎは良くないわよ」
「……まだ2本目だ」
「はぁ……」
「あの女は目が覚めないのか?」
「ええ。でも、ちょっと引っかかるのよね……」
「何が」
「ほら、話したでしょ?飛び出してきた子供を避けて転倒したって。奴らの仲間なんだからそのまま……ってことも有り得たんじゃないかって」
「……そうかもな」
僅かに残った良心のせいか、全く別の理由か。
「それ、何見てるのよ?」
「奴らの情報だ」
ジョディに紙の束を差し出した。そこには例の組織の人間……コードネームを持った者達の情報が書かれている。写真があるのは数人だけ……この先組織が壊滅でもしない限り全員のものが揃うことはないだろう。
「……この女もいたの?」
「ああ……あの屋上にな。ジンを撃った後、ものすごい形相で睨まれたぞ」
「最近見かけないって言ってなかった?」
「おそらく顔を変えているんだろう。そんな話を聞いたことがある……どんな顔かは知らんが」
「それじゃあ近づかれてもわからないじゃない!」
「そうだな」
短くなったタバコの火を消した。3本目……今は我慢するか。
「ずっと前から聞きたかったんだけど、なんでAngelなのよ。奴らの仲間ならDevilとかの方が近いでしょ?」
「いや……あの女にDevilは似合わん」
「シュウが言うならそうなのかもしれないけど……Rotten Appleに比べて安直すぎない?」
「いいんだ、それで。その紙は処分しておいてくれ」
「あっ、ちょっと!」
こんな風に持ち出しているが機密情報だ。それを処分する責任ごとジョディに押し付けて屋上をあとにした。
奴らと同じく真っ黒な服を纏い、躊躇いなく相手を殺す冷酷な一面もある。それなのに俺を逃がした。NOCであった俺を。明美のためと言ったのも嘘ではないだろうが……もしかしたら、あの夜彼があの場に駆けつけなければ……スコッチは死なずに済んだのかもしれない。
憶測でしかないが……これ以上にあの女を示すのに相応しい標的名はないと思った。だから、そう決めた。
Black Angel……黒の天使、と。