第62章 探りを入れる
ベルモットとディナーに行った日からしばらく。空いた時間があればずっと情報を集めていたおかげで、ベルモットの企みは何となく読めた。問題はいつベルモットが動くか……FBIも彼女のことを張っているようだし。
ベルモットが目的を果たすのか、FBIが彼女を捕らえるか……はたまた別の誰かが関わってくるか。成り行き次第で私も動くことにする。
『ふぅ……よし』
立ち上がって着替えを済ませてメイクをする。ウィッグを被って準備完了。
何年も続けてきたせいか任務外で外出する時はこの顔でないと落ち着かない。FBIも動き回ってるし保険の意味もある。それに久々にポアロに寄りたいのだ……それと、もう1つ確認したい場所もあるし。
---
『新出病院……』
あの時会った男の素性を辿るとすぐに見つけたこの病院。恐らくベルモットの変装。
通行人のフリをしながら遠目から確認してみる。入口のカーテンは閉まっていて……休診日のようだ。周囲をうろつく人影もないし、FBIの監視も今はなさそう。踵を返そうとした時……カーテンが揺れたように見えた。入口の扉が少しだけ開いて、出てきたのは……
『……キール?』
キールは周囲を確認して静かに扉を閉める。そして何事も無かったかのように人混みに消えていった。追いかけようかとも思ったが、今や人気アナウンサーとなった彼女と下手に関わるのはまずい。
さて、どうしたものか……と考え込んでいると、またカーテンが揺れた。そして出てきたのは新出……に変装しているであろうベルモット。よそよそしさは欠片もない、堂々とした様はさすがだと思う。その後ろ姿を見送ってため息をついた。
今なら忍び込むことも可能だろうが、あいにくピッキングの道具は持ってない。ヘアピンでもあれば代用できたが、こういう時に限ってつけてないし。
どこかで買うか……そして夜になったらまた来よう。
途中にあったドラッグストアでヘアピンを購入。バッグに入れてポアロへ向かう。行く前から気分が上がる店はなかなかない。
ドアを開けるとカランカランとベルの音が響く。
「いらっしゃいませ〜、あ!亜夜さん!」
『こんにちは』
「お好きな席にどうぞ〜」
『ありがとうございます』
梓さんの明るい声と隣にいるのはこの店の店長だろうか。軽く頭を下げてカウンターの椅子に掛けた。