第60章 狐を狩る
しばらくして急にガチャッ、バンッ……ガチャッ、バンッ……とロッカーを開け閉めする音が聞こえた。不思議に思って覗き込むと、ジンとウォッカがこちらに向かってけるところだった。
『……終わったの?』
「ああ……姿を変えてズラかるぞ……」
『わかった』
バッグから変装道具を取り出し、簡単な変装をして外へ出る。一度、その場でウォッカと分かれ、車に乗り込んだ。
早々に変装を解いたジンは、シガーライターでタバコに火をつける。車のエンジンがかかってゆっくりと動き出した。
『誰も来なかったの?』
「……例のソフトと板倉にくれてやった小切手を置いてな」
『ただ取引に来ただけってこと?』
「いや……組織のことを嗅ぎ回ってるキツネがいるのは間違いねえ」
ウォッカが吐き捨てたタバコを回収されたかもしれないこと、ソフトはテープで固定されていて指紋が取られたかもしれないこと……ソフトには発信機が仕掛けられていたこと。
何にしても、ウォッカの行動を読んでそこまでのことをしたキレ者がいる。
『ま、まあ……ソフトは手に入ったんだし』
「……使い物になればいいがな」
ジンのボソッと漏らした呟きは的中。アジトに戻り、私のパソコンでそのソフトを起動してみたのだけど。
『何よこれ……』
見るからに未完成。後に立っていたウォッカがゴクリと喉を鳴らした。
「運がよかったな……未完成のソフトを掴まされただけで、こちらの情報が抜けなかったのは」
「すっ、すいやせん……っ!」
「次はねえ。気をつけろ」
ソフトを取り出してパソコンは閉じる。そしてジンに向き直った。
『これどうするの?』
「一応残しておけ」
残しておいても続きが作れそうなヤツなんているかな……スマホを開くともう朝。通勤、通学が始まる時間だ。眠いわけだ。
『ん?』
ネットニュースの出てきた板倉の名前。そこをタップすると……。
『板倉、昨日の夕方頃死んだみたいよ……ほら』
ジンとウォッカにその画面を見せる。
『今まで以上に警戒しないと駄目かもね』
一体どんなヤツが組織を嗅ぎ回ってるんだろう……命知らずもいいところだし、でもここまでのことをやってのけるキレ者。なんか……正義感の塊みたいな、そんな感じ。
まあ、どんなヤツであっても私達がすることは変わらないけど……組織の邪魔をするなら消さないと。
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