第60章 狐を狩る
午前0時から数分。板倉がメールを受け取った頃だろう。ウォッカがメインで動いてるし、取引自体は明日。そろそろ寝ようか……と思ったところでウォッカから電話が。
『もしもし?』
「すいやせん、こんな時間に」
『いいよ、まだ寝てなかったし。それより何かあったの?』
「ええ。取引時間が変更になりやした」
『……いつに?』
「今日の午前4時に」
午前4時って……あと4時間後?
『どうして?』
「板倉の野郎、明日は心臓の手術だかで都合が悪いらしく……それで急遽その時間に」
『そう……でも、板倉からどうやって連絡が来たのよ』
「あ、こっちから連絡したんです。メールを開き損ねたようで。ったく、群馬の山奥なんかで受け取るからだ……」
『……わかった。4時ね。ジンには?』
「もう連絡は行ってるはずですぜ」
『OK……それじゃ』
電話が切れたスマホをぼんやりと眺めていると、部屋のドアが開く音がした。そちらに視線を向けると、ジンの姿が。
『おかえり。時間が変更になったこと聞いた?』
「……何の話だ」
『ついさっきウォッカから連絡があって……』
ウォッカと話したことを伝えると明らかに機嫌が悪くなった。ソファーに座り込んでタバコに火をつけるまでが荒々しい。
「……電話の相手が本当に板倉だと思うか」
ジンは煙を吐き出しながら低い声で言った。
『……ジンはそうは思ってないの?』
「心臓を病んでる男だ。温度差で心臓に負担がかかるような場所に行くわけがねぇ」
『確かに。じゃあ誰が?』
「板倉が雇った野郎か……組織のことを嗅ぎ回ってるキツネか……」
『……』
まただ。また、あの少年の姿がチラつく。それを振り払うようにゆっくり息を吐いた。
『ウォッカにそのことは伝えない方がいい?』
「ああ……そのツラを拝んでから始末してやる」
ジンは不敵に笑いながらダンッ、と思いっきり灰皿にタバコを押し付ける。
「てめぇも着いてこい」
『えっ、見張りは?』
「何人か用意してる。問題はねえ」
『……わかった』
任務の時の服に着替え、その他必要な物を用意する。支度を終えてジンの横に座った。大きくあくびをすると瞼が重くなる。
『……15分経ったら起こして』
「……」
無言だったけどそのまま目を閉じて……頭の行き場に困ったからジンの肩に預けることにした。