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【名探偵コナン】黒の天使

第55章 捨て切れない名前


『はあ……』

今日何度目かわからないため息。つい先日のジンとの会話を思い出す。


『それって任務?誰と?』

「……バーボンだ。他に空いてるヤツがいねえ」

『そっか。で、主催者は?』

「表でも裏でも有名なヤツらだ……大したことはねえが」

そう言って告げられた相手の組織の名前に自分でも顔が引き攣るのを感じた。

「……どうした」

『……なんでもない』


任務じゃないらしいし、言われた時に嫌だって言えばよかったかも。こんなにも気が乗らないパーティは珍しい。

「浮かない顔ね。このドレス嫌かしら?」

『えっ……あ、いや、ドレスはすごく素敵。メイクも髪型も』

久々にやらせてちょうだい……とベルモットが楽しそうにメイクをして髪をセットしてくれる。段々と仕上がっていく姿に比例して不安も大きくなっていく。

「ジン、そろそろタバコやめてくれない?においが移るでしょ」

「気にする必要ねえだろ」

そう言うジンにベルモットはため息をついた。

「これでいいわ。どう?」

『うん、ありがとう』

鏡に映る完璧に仕上げられた姿。嬉しいはずなのに顔が笑わない。無理矢理に口角を上げても、それ以外の部分は変わりもしない。

「……何がそんなに嫌なの?言って」

鏡越しにベルモットと視線が合わさる。正直に言ってもいいんだろうか……でも、ここまでしてもらったのに行かないのも気が引ける。

『……主催者が好きじゃなくて。たぶんそのせい』

「そう……何かあったらバーボンに守ってもらうのね」

嘘は言ってないけど、それだけが全てというわけでもない。ベルモットはそれ以上何も聞かないでくれた。

部屋のドアをノックする音が響く。もうそんな時間か……と立ち上がった。ドアを開けるとバーボンの姿が。

「綺麗ですね」

『……ありがと』

「では行きましょうか」

手を差し出されるけど無視して歩き出した。さっさと行って、さっさと帰りたい。

駐車場におりたけど、いつもの白い車が見当たらない。

「こっちです」

そう言って示されたのは黒い車。助手席のドアを開けて中へ促される。

『……いつものは?』

「修理中で。この車でも、パーティに出向くのには問題ないでしょう?」

『……そうね』

エンジンのかかる音が一層気を重くさせる。

「浮かない顔ですね。何かありましたか?」

『……別に』
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