第53章 たぶん、そんな感じ
『っ、くしゅんっ』
朝、起きてから何回くしゃみをしただろう。体もいつもより熱い気がする。動けないほどじゃないけど少しだるい。間違いなく昨日の見張りのせいだ。
食事の準備をするのも億劫で、ゼリー飲料で空腹を満たし、使用期限ギリギリの風邪薬を口に放り込む。普段より服を多めに着込んで肩にブランケットをかける。
テレビを付けるとちょうど朝のニュース番組の時間だったようだ。どのチャンネルを見ても昨日の事件のことを取り上げていた。
杯戸シティホテルの火事、焼け跡から1人の遺体。被疑者の家も火事があり全焼。被害者家族は行方不明。原因は調査中らしいが、きっとその真相が明かされることはない。
ベルモットが言っていた野暮用はこのことだろう。本人達から連絡はないから、あくまで予測。でも間違いではないだろう。
体調がいいとは言えないから、今日は1日部屋でゆっくりしよう。テレビを消してベッドに潜り込もうとした時だった。
「てめぇどういうつもりだ!!」
思わずビクッとなるくらいの怒声がドアの向こうから聞こえた。
『アイリッシュ……?』
この声はたぶん彼のもの。こんな声を聞くのは初めてで、体のだるさよりもその声が誰に向けられているのかが気になった。
部屋のドアを少しだけ開いて外の様子を伺う。そして見えたのはジンとウォッカ、そしてアイリッシュの背。そこからは隠しきれない怒りを感じた。
更に顔を覗かせるとジンと目が合った……気がする。直後、アイリッシュが向き直ってこちらに向かって来たから慌ててドアを閉める。何か言われるのかと思って息を殺して耳をすませていたけど、足音は部屋の前を通り過ぎた。
ゆっくり息を吐いて再びドアを開けようとドアノブに手をかけた。が、
『わっ』
押し開くより先に引っ張られて体が前に倒れる。そして目の前にいたジンにぶつかった。
『ごめん……』
改めて部屋の外を見るけど、既にアイリッシュの姿はなかった。
「チッ……」
ジンは舌打ちをして部屋に入ってくる。もちろん、ウォッカも続いて。2人が来たことに何か理由があるのはわかる。でも、今はアイリッシュの様子の方が気になった。
車のキーを手に取った。しかし、その手をジンが掴む。
『……ごめん』
それしか言えなくて、でも、ジンの手の力が弱くなったから簡単に引き抜けた。そして、唇を噛みながら部屋を出た。