第52章 彼女の痕跡
そのトップに出できた熱愛発覚の文字と写真。これが撮られたのは例の会場らしい。
写真の中心の2人じゃない、その後ろ。小さくて拡大しないとよく見えないけど……天井に向けて腕を伸ばしているのは、間違いなくピスコだ。
『これは……まずいな』
遅かれ早かれこの姿に気づく人がいるはず。手助けで誰かがいるにしたって、写真があるから言い逃れするなんて無理な話だ。
こんなミスしてしまった以上、ピスコを待つのは……。
『残念ね。でも……ごめんなさい』
ピスコの写っている部分を拡大して、それをジンとウォッカにメールで送る。どっちが気付いてもいいように。
ネットに上がっているから、もう既にこれに気づいている組織の人間人もいるかもしれない……。
杯戸シティホテルから少し離れたところに車を止めて連絡を待つ。
『……はぁ』
ピスコは……始末されてしまったんだろうか。シェリーは本当に現れたんだろうか。早く聞きたいけど、ジンとウォッカが今どんな状況にいるのかわからないから、下手に連絡できない。
気を紛らわしたくてタバコに火をつける。寒いけど、煙を外へ出すために少しだけ窓を開ける。と、タバコとは違う煙の臭い。そして、サイレンを鳴らして走っていく消防車……火事だろうか。
その時着信音が鳴った。画面を確認して動きが一瞬止まる。
『……ベルモット?』
なんで彼女から?不思議に思いつつも電話に出る。
『……もしもし』
「Hi、マティーニ。撤収ですって」
『わかった……けど、なんでベルモットなの?』
「あら、不満?」
『違う、嬉しいけど……あ、ベルモットが会場にいたの?』
「そうよ」
手助けで入ったのはベルモットだったのか……いや、そうじゃなくて。
『えっ、じゃあもう帰ってきてるの?』
「昨日の夜ね。聞いてないのかしら?」
『聞いてない……知ってたら迎えに行ったのに。今、誰かと一緒?』
「ええ。ジンとウォッカと」
『そう。ならよかった』
「とりあえず帰りなさい。こっちは野暮用片付けてから戻るから」
『うん。またね』
電話が切れたのを確認してスマホを置く。さっきより煙の臭いが酷い。火事が起きているなら大通りは避けた方がいいか……帰り道を思い浮かべながら車を発進させる。
『あ、さっきの……』
途中、先程見た黄色いビートルとすれ違った。