第52章 彼女の痕跡
暇だ。車のキーを指でクルクルと回しながらソファーに深くもたれかかった。
いつでも動けるようにしとけって言われたから、呼び出しの後すぐ出れるようにしてある。任務の時の服装に着替え、使うかどうかわからないけどライフルのバッグも用意。どのタイミングで連絡がくるかわからないから、下手に調べ物もできない。
『……連絡来なかったりして』
待たせているくせに堂々と帰ってきてもう終わった、とか言いそう。それだけは勘弁して欲しい……今日開かれる会は18時からって言ってたな。
にしても、ピスコが任務に出ることなんてあるんだなんて驚いたのは今朝のこと。表向きの立場で招待されているらしいから、適任といえばそうなのだけど……手助けでもう1人、誰かが行くとは聞いた。誰かは教えてくれなかったけど。
『おっ……』
着信音が鳴った。連絡がこないかもなんて考えは杞憂で終わりそうだ。
『もしもし』
「……どこにいる」
『ジンが待機って言ったからずっと部屋で待ってるんだけど』
「今から言う場所に来い。話はそれからだ……あの女が聞いてるかもしれないんでな」
『え?あ、ちょっと!』
切れたし……それにあの女って誰?メールで送られて来た場所を確認して部屋を出る。雪って言ってたから適当な上着も引っ張りだした。胸騒ぎがする……こういう感覚はよく当たるから怖い。
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『寒っ……』
雪がここまで積もるとは思っていなかった。おかげで普段より車が動かなくて、指定された場所まで予想以上に時間がかかった。
一度自分の車を止めて外に出る。吹き付ける風が冷たくて、上着の襟を立ててジンの車に駆け寄り後部座席に乗り込む。
「……遅かったな」
『悪かったわね。もっと早く連絡くれればよかったのに。それで?』
「杯戸シティホテルの入口を見張れ」
『わかった……けどなんで?』
「あの女が間違いなく来るだろうからな」
『さっきから言ってるけど、あの女って誰よ』
「シェリーだ」
『は……?』
雪とは別の理由で背筋が冷たくなる。
『……なんでそんなことわかるのよ』
「この車に盗聴器と発信機が仕掛けられてた」
『それだけでシェリーって決めつけたわけ?』
「……あの女の髪も落ちてたからな」
『髪って……』
それだけで個人を特定できるものだろうか……すごくモヤモヤする。