第47章 価値
「……もう少し寄れ」
『動けない……ここにおろしたのジンでしょ……』
そう言うと腰の下に手を入れられてゴロン、と転がされる。
「……ずいぶん冷めてるもんだな」
『ん……何が?』
「……組織の人間が死んだろ」
きっと、明美の一件の時のことを言いたいんだろう。確かにあの時は取り乱したし、気持ちの整理に時間が必要だった。でも、人が死んだのは同じだけど、あの時とは全く違う。
『命の重さに違いがあるとは思わないけど……その価値が全員同じかって聞かれたら違うでしょ』
「……そうかもな」
『冷めてるっていうか……テキーラが死んだことを悲しむ理由がないだけよ』
むしろ清々してるくらい。確かに急なことで驚いたし、若干の戸惑いもあった。でも、任務だって同じになることはなかったしいなくなったからって何かが変わるわけでもない。
『今回は何も思わないけど……他のメンバーがいなくなったらたぶん泣くかも』
「いなくなるたびに泣くつもりか?めんどくせえな……」
『面倒なのはずっと前から知ってるでしょ?だって悲しいものは悲しいし……あ、でも……』
と、そこまで言いかけて、やっぱり言うべきでないのかと思って口を閉じる。
「変なところで止めるな。全部言え」
『でも言ったら怒りそう』
「……尚更言え」
『怒らないなら言う……』
「……怒らねえから言ってみろ」
腰に手が回されてグッと引き寄せられる。ジンの顔を見る限り、言い方を間違えたら機嫌を損ねそう……ジンの射抜くような視線が耐えられなくて、自分の視線は目の前にあるジンの胸板に向けた。
『あー、その……ジンが私より先にいなくなることってないだろうから……その時は泣けないな、って思っただけ……』
「……」
『私が死ぬ時はジンが殺してくれるんでしょ?だから駄目だよ、私より先にいなくなるのは』
怒ってるのかジンは何も言わない。その代わり更にグッと引き寄せられた。そして、私の腹部と肩に残っている傷跡をそっと撫でる。不思議に思って視線だけを上げると、ちょうどジンと目が合う。
「……寝ろ」
それだけ言ってジンは目を閉じた。怒ってないのか……とちょっと安心しながら同じように私も目を閉じる。そうすればすぐに眠気がやってきて、意識がゆっくりと落ちていく。
意識が途切れる寸前、回されている手に少し力が入れられた気がした。