第47章 価値
行きと同じようにタクシーをに乗って、同じ場所で降ろしてもらう。自室に戻ると、ジンところでウォッカがいた。
『ただいま。早かったんだね』
例のバーが爆発したことはSNSを通して確認済み。それをやったのはこの2人だろうし、私の方が早く戻ると思ってたんだけどな。
「……それで」
ジンの低い声に肩をすくめた。
『他人の復讐に巻き込まれただけみたい。本当に狙われてたのは今日の取引相手』
「……そんなことが」
ウォッカの声には戸惑いや驚きの色が見える。そりゃそうだ、私だって驚いてるんだから。
『不運な男よね……』
「取引相手は」
『警察に連れてかれたみたい。あのバーのことも喋ってたし』
「……」
『あ、あと……』
そこまで言って口を閉じた。
毛利小五郎のことを伝えるべきだろうか……いや、伝えた方がいいんだろうけど、完全に黒だと決まったわけじゃないし。
「何かあったんですかい?」
『あー……とりあえず大丈夫』
一度調べてからにしよう。ただ、不審な男が目に付いたってだけかもしれないし……。
少しの間、部屋に沈黙が落ちる。それを破ったのはまたしてもジンだった。
「……その顔やめろ」
『えっ、なんか変な顔してる?』
「マティーニ……表情のことじゃなくて、その変装のことだと……」
『なんでよ、何回も見てるでしょ』
「……」
「お、落ち着かないのかもしれやせんね……何度見ていても常に見てる顔とは違いやすから……」
ウォッカの声に、電源を入れようとしたパソコンを一度閉じる。そして、洗面所に向かった。
ウィッグを外し、メイクを落としていく。そして、鏡に写った本来の顔をぼーっと眺めた。
『……そんなに変わらないよね』
完全に別人に化ける時の変装マスクとは違う。ただ、アイラインの引き方とか、シャドウの入れ方を変えてるだけ。だから、普段から顔を合わせる人が見れば私だと気づく。
だから、ちゃんと私の面影は残っているし、ベルモットもあえてそうしてくれたんだと思う。
それでも落ち着かないって……ジンの警戒心の高さは知っているつもりだから、そういうのがわからないわけでもないんだけど。
メイクを落とし終え、まとめていた髪を解いて軽く梳かす。部屋に戻るとウォッカの姿はなかった。
『これでいいでしょ』
ジンはチラッと視線を向けてすぐに逸らした。