第47章 価値
「すいやせん、手伝わせて……」
『大丈夫よ、暇だったし』
大量のダンボールを運ぼうとするウォッカを呼び止め、世間話をしながら仕事を手伝う。1人で大丈夫、と言われたけど本当にただ暇で部屋にいるのはもったいないし、かといってやることもないし……渋るウォッカをどうにか言いくるめた。
『……ジンの機嫌悪くない?』
「あの一件から少し……」
というのも、消す予定だった女が生き残ってしまったのだ。新幹線で取引して、そのまま新幹線ごと爆発させる予定だったのに、どういうわけか……女は警察に捕まったらしいし、こちらのこともほとんど知らない。だから、生きていたって問題がないと言えばそうなのだけど。
それからシェリーのことも。あの事件以降、本当に研究の手を止めているらしい。このままじゃ本当にシェリーも……。
浮かびかけた嫌な考えを追い出すように頭を振った。
「あ……」
ウォッカの声に反応するより早く、誰かとぶつかった。その衝撃で持っていた箱が落ちそうになった。どうにか落とす前に受け止めたけど。
「チッ……」
『……ごめんなさい』
……よりによってテキーラかよ。本当に、この男だけは仲良くなれない。最初は一方的に嫌われてるだけだと思っていたけど、数年経つのにまだこの態度だ。さすがにイラッとする。
「いい加減にしろや。ガキの来る所やない」
『……』
イライラするけど我慢……喧嘩を買ったってなんのいいこともないんだから……我慢。
「お前も落ちたもんやなぁ、ウォッカ。こんな女にヘコヘコしとるんか」
『……は?』
思わず小さく声が漏れた。こいつウォッカのことまで悪く言うつもり?
「別に俺が使われてるわけじゃねえ。手を借りてんのは俺だ」
ウォッカはそう言ってくれたけど、テキーラは鼻で笑う。
「騙されとるだけや。いくらラムの命令でもオレは認めんからな……ジンも阿呆になったもんや」
ブチンっと自分の中で何かが切れた。どんどん湧き上がる殺気を立ち去っていくテキーラの背中に向ける。
「……マティーニ?」
『今まで我慢してやったけどさすがに今回は許せないなぁ……ジンとウォッカのこと悪く言うなんて……』
「えっと……」
『今日のテキーラの任務って何?場所は?』
「何をするつもりで……」
『弱みを握ってやる……二度と舐めた口聞けなくしてやるわ』