第46章 最初で最後※
「……水は」
『ん、飲みたい……』
声掠れてるし……バスルームから出た後、身体はベッドの上に雑に投げられたてうつ伏せになったまま。どうにか枕の上まで這って行ったけどそれで限界。本当に動けない、しんどい……。
「……めんどくせえな」
『誰のせいよ……』
肩を掴まれて、強引に身体を返される。そして、唇同士が当たってジンの方からぬるくなった水がゆっくりと流し込まれる。
『……もっと』
そう強請るとペットボトルをそのまま差しだされた。そうじゃない……なんて思ってムッとした顔を向けた。手を伸ばす気もないし。
「……ったく」
心底面倒臭いって顔を浮かべながらも、数回に分けてまた口から口へ、水がゆっくりと流し込まれた。でも、最後は量が多くて全て飲み込めず、口の端から垂れたし少しむせた。
『んっ、げほっ……』
「調子に乗るからだ馬鹿」
ペットボトルを置いて、ジンも隣に寝転んだ。また身体を返されて、ジンと向き合うようにされる。
『……もうしない』
「毎度毎度、その言葉は無駄だって気づけ」
『ちょっとは加減してよ……翌朝起きないと文句言うくせに』
「何年同じことしてると思ってる。お前が慣れろ」
『何年……って』
顔が熱くなっていく。思い返すとそれだけ長い時間一緒にいるんだなぁ……なんて改めて感じた。でも
『……慣れるわけないじゃん』
小さく呟くと、ジンは意味がわからねえって感じの顔を向けてくる。
『好きなのに……慣れるとか、無理……』
「……お前」
『いちいち言わせないでよ……すごい恥ずかしいんだけど……』
「さっきしてる時も聞いたぞ」
『……さっきと同じにしないでよ馬鹿』
ジンの薄い頬を軽く摘んだ。痛え、とすぐに払いのけられる。
『ジンも……言ってくれたら嬉しいんだけどな……』
「……調子に乗るな」
ムニッと頬を摘み返される……結構力強いし。10秒くらいして頬を引っ張りながら指が離れる。顔をしかめた私に向けて、ジンはフッ、と笑いを漏らした。それにつられて私も笑みが零れる。
『最後まで一緒にいてくれる……?』
「……気が変わらなきゃな」
『……』
「……なんだその顔」
この言葉に照れ隠しの意味がないのはわかる。ジンはそんなに優しい人じゃないから。それも全部好きなんだけど。
『……それでも、私の最後はジンにあげるから』