第39章 あと1年※
「……少しくらい動く努力をしろ」
『え……うわっ』
ベッドに着くなり、ゴロンと転がされた。うつ伏せになったけど起き上がる気にもなれない。
『好き勝手したくせに乱暴とか……』
「昨日も今日も誘ったのはお前だろ」
『もう知らない、1週間しない……』
「言ってろ」
ジンはタバコを咥えながら、テレビをつけた。よくわからないCMが聞こえてくる。
『水取って』
「ったく……」
目の前に差し出されたペットボトルを受け取って、ゆっくりゆっくり体を起こす。蓋を開けて、冷えた中身を口の中に流し込んだ。
《さて、あの爆発事件から9年経ちました。時効の成立まで残り1年となります……》
覚えのありすぎる内容が耳に飛び込んできて、テレビの方へ顔を向けた。
『あと1年か……』
「気になるか?」
『まあ、それなりに』
「お前が何かしたわけじゃねえだろ」
『そうだけど、そうするに至った原因は私でしょ?』
ジンの言う通り、あの爆発を仕組んだのは私ではない。実際のところ、誰がやったのかすら知らない。でも、私を引き抜くために、そこにあった証拠を全て消すためにそうしたんだから私にだって何かしらの罪はある。
それに、時効の成立によってやっと終わる気がするのだ。あの組織で過ごしてきたファーストとしての時間が。忘れたくない思い出ももちろんあるけど、今の私は黒羽亜夜で、マティーニで……それがやっと完全になる気がする。
『ジン、ありがと』
「……急になんだ」
『あの日、見つけに来てくれて。あの男を私の代わりに撃ってくれたことも』
「それは俺が決めたことじゃねえ。ラムの命令だ」
『もう……そこは素直に受け取ればいいの』
「……そうかよ」
私に背を向けたまま答えるジン。ムッとしたけどそれより眠い……。でも、どうしても言いたいことがある。
『ねえ……』
「なんだ」
『あの約束、ちゃんと守ってね』
「……」
『私を、殺していいのはジンだけだよ……私もそれまでは絶対に死なないから……』
「……わかってる」
『ジンもそれまで死んじゃだめだからね……』
「ああ」
『ねえ、ジン……』
「……なんだ」
『本当に、大好き、だよ……』
目を閉じながらそう呟いた。ゆっくり落ちていく意識の中、ジンの手が頭に触れた気がした。