第33章 逃がさない※
誰かの指が髪を梳いていく感覚で目を薄く開けた。数回瞬きをして完全に目を開けるとジンが居て。距離を取ろうとしたけど思うように動けなくて、起こしかけた体はベッドに沈む。視線だけを動かして時計を見ればもうお昼近い時間。
「体、大丈夫か」
『そう見えるなら、そうなんじゃない?』
目を合わせずにぶっきらぼうに言った。可愛くないなぁ私。
「……それならいつまでも寝てんじゃねぇよ」
誰のせいでこうなったと思ってるんだか……タバコに火をつけたジンを睨みつけながらゆっくり、ゆっくり体を起こす。体を支える手からは既に手錠が外されていた。でも、赤く擦れた跡が残っている。
むしゃくしゃして頭をかいた。すると指に当たる硬い感触……首に何か付けられてる。
『何、これ……』
何かの機械みたいな……首に巻かれているから首輪と言った方が近いのだろうか。
『ねえ、何よこれ』
「首輪だ。見てわからねぇか?」
『そうじゃなくてなんで……』
「付けとかねぇと逃げるだろ」
タバコを灰皿に押し付けながらそう言う。そして、コートを着て帽子を被り始めたから出かけるつもりか。
「まあ、無理矢理外そうとしたり、この部屋から出るような真似したら……その頭が消し飛ぶがな」
背筋がゾッとした。それと同時に頭が疑問でいっぱいになる。そこまでして逃がそうとしない理由って何……?
『……どこ行くのよ』
「あの野郎とは話をつける必要があるみてぇだからな」
あの野郎って……バーボンのこと?
『バーボンに何かしたら許さないから』
「それを決めるのはてめぇじゃねえ」
『バーボンに何かするなら……この部屋から出るから』
「……勝手にしろ」
そう言って部屋を出て行くジンの背中を、睨むことしかできなかった。バタン、と閉まったドアを見て力が抜けて涙が溢れた。何度拭ってもどんどん溢れてくる。
重くて仕方ない体に鞭を打って立ち上がった。目の前にある鏡に映る自分の姿に嫌気がさす。何も身につけていないその体に残された歯型。うっすら血が滲んでいる。バーボンが付けてくれたキスマークはひとつも残っていない。瞼は赤く腫れている。
『もう、やだ……』
この状況は全く理解できない。ただ、ひとつ言えるのは……あの日、あんなに幸せを感じたこの部屋の思い出は、たった一晩で真っ黒に塗りつぶされてしまったということだけ。