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【名探偵コナン】黒の天使

第33章 逃がさない※


「今日は遅くなりますか?迎えはどうしましょう?」

『そんなに遅くはならないと思うけど……終わったら連絡いれるね』

「わかりました。気をつけて」

最近、ハッキングをして手に入れた麻薬密輸のデータ。それに関わる組織から口止め料として大金を巻き上げるのが今回の任務。得たお金は誰かが回収しに来るらしい。誰かは聞いてないけど、たぶんウォッカだろう。

気になるのが取り引き場所。人目につかない所にすればいいのに、なぜか有名なホテルの一室を指定された。何度か行ったことのあるホテルだから、下調べは必要ないけど、なんか嫌な予感がする。

バーボンがそのホテルの近くまで送ってくれた。別れ際、軽くキスをされて……昨日の夜首に付けられたキスマークを指がなぞる。キスマークがあるのは首だけじゃないんだけど。

車をおりてゆっくり息を吐いた。指定された部屋へ向かう足に迷いはない。エレベーターのボタンを押す指も、分かれた通路を選ぶのも……なんでだろう。

疑問には思ったけど、その答えが出る前に部屋の前についた。ドアをノックしようと上げた手に、なぜか既視感を覚える。頭は疑問でいっぱいなのに、手は慣れたようにドアをノックして、返事を待たずにドアを開けた……何度もその行為を繰り返したことがあるかのように。

『あ……』

ドアを開けた瞬間、鼻についた匂いに過去の記憶が鮮明に思い出される。そうだ、覚えていて当たり前だ。部屋に居座られるまでは何度もこうしてきたのだから……。

その事実に気づいて足がすくんで動かない。部屋の奥から感じる威圧感と殺気。呼吸が早くなって、生唾を飲み込む喉がゴクリと音を立てる。

「……さっさと来い」

その声に手が震える。真後ろにドアがあるのに振り返ることすらできない。口は開くのに声が出ない。

しびれを切らしたかのように近づいてくる足音。逃げろ、逃げろと頭の中で警鐘が響く。その姿が見えてハッとしたかのように体に力が入る。振り返ってドアノブに手をかけた。

カチッと頭の後ろで音がした。条件反射で手を挙げる。

「……逃げられると思うなよ」

そう言った声……ジンの声には殺気以上の何かが込められている気がした。体を返されたかと思うと、壁に押し付けられる。目の前の光景には覚えがあった。

ああ、そうだ。この部屋は……私が初めてジンに抱かれた部屋だ。
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