第31章 利用※
『……え?』
「迷惑ですか?」
『や、え?意味わかんない……』
「しばらく一緒に生活しませんかって言ってるんです」
『そういう事じゃなくて、なんで、私なんか……』
「好きだから一緒にいたいんです。それ以外にも理由が必要なら……」
『待って待って!』
全然頭の中の整理ができない。言われてる意味はわかるけど、なんで?が思考を埋め尽くす。好きだから?でも、本当にそれだけ?
いろんな考えが浮かんで消えて、そんな時バーボンの笑う声が聞こえた。
「……あ、すみません。百面相しているのが可愛らしくて、つい」
『他に……どんな理由があるの』
それを聞いて、納得できたら……残ってあげないこともない。
「1人の生活は退屈なんです」
『他に』
「貴女の支えになりたいです」
『……支え?』
「貴女がどうしてアジトを離れたのか、無理に聞くつもりはありませんが……」
『……』
「その原因を絶つことができるまで、傍にいさせてください。僕を、利用してください」
『……他に』
「ここにいてくれることで、貴女の心が僕に靡いてくれるんじゃないかっていう下心です」
『本気?』
「もちろん。貴女だからここまでしたいんです」
『変なの』
呆れたけど笑みが漏れたのがわかった。
『……じゃあ、しばらくお世話になります』
気が緩んだのか、眠くなってきた。買い物、行くって言ってたよね……。
『適当に起こして、ちょっと寝る』
「わかりました。おやすみなさい」
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夕方、大型のショッピングモールで食器とかパジャマとか、生活に必要な物を買った……いや、買ってもらった。なんか心がムズムズする、なんだこれ。
『ごめん、ちょっと……』
「ん?お手洗いですか?」
『うん、まあ……行ってくるね』
バーボンから1度離れて……メール確認しないと。
スマホの電源を入れた途端山のように入ってくる通知。大量のメールに、不在着信は3件。ジン、ウォッカと……
『あれ、アイリッシュ?』
折り返したいけど、ここじゃ駄目か……。渋々任務のメールを確認して電源を切ろうとしたが、着信によって阻まれる。この番号は……ジンだ。でも、話したくなんてない。
震える指をどうにか動かして電源を落とし、急ぎ足でバーボンの元へ戻った。