第3章 コードネームと小さな天才
ドアを開けるとジンはタバコを吸っているところだった。
「わざわざ悪いな」
『いいよ、今日何もすることなかったし……』
今日は任務がなかった。せっかくだから、新しいトップスとスカートを着てショッピング、と思った所で呼び出し。
いつもの真っ黒なコートと帽子を身につけていないジンの姿は、なんか新鮮。と、フワッと香った香水の匂い。
『……ベルモットも来たんだ』
「なんでわかる」
『香水の匂いがしたから……あれ好きなんだよね』
それを聞いて、ジンの機嫌がちょっと悪くなった。
『それより、なんで私のこと呼んだの?ここじゃないとできない話?』
「ああ、そうだな……」
そう言って渡された封筒。中を見てみると男の写真が1枚と、その男のものであろう情報が細かく書かれた書類が2枚。
『これ何?』
「そいつの持っている情報が欲しい」
『ふうん……ハッキング?それともパソコン盗んでくる?』
「いや、できる限り調べたが、データとして保存はされてない」
『……じゃあ、どうすればいいの』
「わからねえか?直接聞いてこい」
『……それはちょっと』
嫌な可能性が頭をよぎる。
「てめぇ、本気で言ってんのか?」
やばい、ジンがイライラしてる……。
でも、".それだけ"はやらないようにしてきたのに……ベルモットもそういう任務はまだいいって言ってたし……。
「チッ……身体使ってそいつから情報を引き出せ」
……最悪だ。どうしよう、困った。
『……そういうのってベルモットの方が向いてるでしょ?私じゃなくても……』
「生憎ベルモットは別件で動いてる。だからてめぇに頼んでんだ」
『ならキャンティとか……』
「アイツに務まると思うか?」
『じゃあ、キュラソー?』
「ラムが許すわけねえだろ」
どうしよう、何か他に……。
いろいろ考えを巡らせていると、痺れが切れたのかジンが立ち上がってタバコを乱暴に消して、近づいてくる。
まずいと思って後ずさるけど、すぐ後ろに壁があって、これ以上逃げられない。
トンと顔の横に手を突かれ、ジンに見下ろされる。
『あ、えっと……怒ってる?』
「あたりめえだろ」
その視線に思わず目を逸らす。が、顎を掴まれて無理矢理視線を合わせられる。
「そこまで拒否するのは、納得できる理由があるんだろうな?」
……万事休すか。