第26章 上書き※
「えーっと、先程は失礼を……」
『ウォッカは悪くない。悪いのはジンだから』
「あ?てめぇだって乗り気だったろ」
『っ……馬鹿っ!』
あのまま抵抗虚しく抱かれた。1回で終わる訳もなく。そして、タイミング悪くウォッカからジンに電話が来て……止めるどころか更に激しくされて声を聞かれるという……。結局アジトを出るギリギリまで抱かれて、これから任務だというのに身体がだるい。
ウォッカはさっき言葉を発して以降全力で空気になってるし……こう言っちゃなんだけど、ウォッカってそういうことに疎そうだもんなあ……。
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『……入口と車の近くにそれぞれ3人』
ジンとウォッカが取引に行って、私は狙撃の待機。相手の組織が何もしなければ私の出番はない。それはそれでいいのだけど。
護衛だろうか……待機場所から見える同じ服を着た5人は全員拳銃を持っている。そういう取引相手は今までにもいたし、不思議なことではない。スコープから目を離す。ふと、あの夜のことを思い出した。
……スコッチが死んだあの夜のことを。
『……またか』
ふとした瞬間に、スコッチやライと過ごした時のことを思い出す。ホテルで受付している時とか電車が見えた時、そしてライフルを構えた時。
ライの本名がわかったことで素性をできるだけ洗ってみた。なんでもFBI随一のスナイパーで、シルバーブレッドなんて異名まであるとか。
シルバーブレッド……銀の弾丸。
『まさか……ね』
あの男が組織を倒す銀の弾丸になるのだろうか……そんな考えを頭から振り払うようにして、再度スコープを覗いた。
『ん?』
取引現場から少し離れた所にいる2人の男。その視線は取引をしている様子に向けられているようで。
『……ジン、早めに引いた方がいいかも』
「……」
取引中なのでジンからの返答はない。あれだけ護衛を抱えている相手だ。変な理由をつけて攻撃されても困る。
『警察が動いてるみたい……少し離れたところに2人いる』
「……チッ」
相手が私たちを警察に売ったか……もしくは組織内に警察と繋がる誰かがいるのか。後者でないことを祈ろう。
早々に取引を終わらせた2人と合流して車に乗り込んだ。車内は空気がピリピリしてる。
なんとなく外を見た時、視界に映った見慣れた白い車には気づかないフリをした。