第25章 本音か嘘か※
思考が急にはっきりしてくる。
『……なんの、冗談?』
「冗談……ですか。まあ、この状況ならそう思われても仕方ないですかね」
髪を梳いていく手がとても優しくて、向けられる視線が愛おしそうで、どうしたらいいのかわからない。
「どう受け取っていただいても構いません。本音でも嘘でも都合のいいようにとらえてください」
そう思えないから困ってるのに。バーボンの表情はとても嘘をついているようには見えないから。
そして、その気持ちにこたえることができないから。
『バーボン、ごめ……』
「何も言わないでください」
『……え?』
「今、貴女からいい返事が貰えるなんて思っていません。しかし、諦めるつもりも全くありません」
『でも』
「気持ちが変わらない人なんていないでしょう?ほんの少しでもその可能性があるなら十分です」
『……』
「それに、自分で言うのもなんですがジンより良いと思いますよ」
『そんなこと……っ』
「僕ならちゃんと愛を伝えられますよ。彼に何か言葉をかけられたことはあるんですか?」
『……そういう関係、じゃないから』
確かに私の意識がある時には、好きとか直接的な言葉を言われた記憶はない。いつも遠回しな言葉ばかり。本当は知らないうち言ってくれてるのかもしれないけど、聞いたところで教えてくれない。
「自分の気持ちに蓋をしないといけない関係なんて辛いでしょう?」
『辛くない……』
これ以上の関係は望まない。何度もそう思ってきたし、自分に言い聞かせてきた。それでも、気持ちに抑えがきかない時がある。そういう時だけはジンに好き、と伝える。それにまともな変事が返ってきたことは一度もないけど。
バーボンの顔が耳元に寄せられた。そして囁くように……
「亜夜、好きですよ」
『っ……』
馬鹿みたいに心が掻き乱されていく。目に涙が浮かんでくるのがわかった。ジンだけだと思っていたのに、バーボンの言葉に揺れそうになっている自分が嫌だ。
これ以上聞きたくなくて耳を塞ごうとしたけど、その両手はバーボンによって阻まれる。
「亜夜……」
『やだ、聞きたくない……!』
「僕ならそんな思いはさせません。そして何より……」
まただ。バーボンでも安室透でもない、知らない雰囲気が彼を包んだ。
「僕なら、貴女をこの闇の中から救い出せる」