第21章 秘密
部屋の前でウォッカと別れ、ドアを開ける。中から漂う雰囲気にドアを閉めそうになる。これは予想以上にヤバいかもしれない。恐る恐る部屋に入る。
「……座れ」
ジンが顎で示す先は……床。今、この状況で逆らう気にはなれず床に座った。なんとなく正座で。
『えっと……』
「なんで壊した」
『それは……仕掛けたのがあの男だと思って……』
「……本気で言ってんのか」
『だって盗聴器のことなんて言わなかったじゃん……言われてたら壊してないし』
ここで目を逸らしたら駄目だと思い、ジンの目を見ながら答える。
「あの女は何か知ってたか」
『……何も。連絡も取れなくなったみたいだし』
「まさか庇ってる訳じゃねえよな?」
『違うよ。本当に知らないって』
「本当……だな?」
人を殺せるんじゃないかってくらい鋭い視線に背筋がゾワッとする。手をギュッと握りしめた。
『だからそうだってば……あの男が組織に関わる人間に情報漏らすわけないでしょ』
「……」
『褒める訳じゃないけど、あの男の仲間がミスしなきゃスパイだって気づかなかったんだし……それだけ立ち回りが上手いのに情報漏らして、自分で自分の首を締めるようなマネするとは思えないんだけど』
ジンは何も言わない……尋常じゃない殺気をまとっているけど。
『だから、彼女は白……これ以上警戒しなくても……』
「それを決めるのはお前じゃねえ」
『……は?』
思わず出てしまった言葉にスっと血の気が引く。口を押さえたって遅すぎるし、さすがに耐えきれなくなって顔を逸らした。すると、ジンが立ち上がる気配……伸びてきた手は顎を掴んで顔の向きを変えられる。
「文句があるなら言ってみろ」
『……私の言ったことが信じられない?』
「だったらなんだ」
『私はその程度かって思うだけ』
よくこんなこと言えるな……なんて自分に悪態をつく。嘘を重ね続けることしかできなくなっているのに、その道を選んだのは自分なのに……ジンのそばから離れたくないなんて都合の良すぎる話だ。
「……チッ」
舌打ちと同時に手が離れていく。
『……もういいかな』
顔ちゃんと洗いたい……そう思って立ち上がろうとした。が、腕を掴まれて気づけばベッドの上。
「……傷は」
『もう痛くないけど……?』
「それなら付き合え」
反応する間もなく口が塞がれた。