第21章 秘密
「……さっさと帰ってこい。話はそこで聞いてやる」
切られた電話にため息が出る。ウィッグを取りながらエンジンをかけ、久々のメイクで重い顔からそれを落としてサングラスをかけた。
ジンに……いや、ジンだけじゃない。組織に対して、嘘がどんどん積み重なっていく。きっとその内の一つでもバレてしまえば、私は始末される。他の人にも被害が及ぶ。だからといって、撤回なんて許されるはずがない。
『……馬鹿だなぁ』
ジンのことは好きだしそばにいたいと思う。でも、明美だって同じくらい大事だし……もし、どちらかを切り捨てろと言われても選べる気はしない。私が死んで解決するなら喜んで死ぬけど。
アジトにつくまでの間、ひたすら言い訳を考えた。嘘も事実を混ぜて伝えればそれっぽくなるって言うし……。
『……あれ』
駐車場に入るとバーボンの車があった。車内に本人の姿はない。アジト内に立ち入る許可が出たのだろうか……。
そう言えば……バーボンに助けてもらったお礼と、服も弁償しないと。
そんなことを考えていると、アジト内繋がる扉が開くのが見えた。出てきたのはバーボンとウォッカ。何か話しているようだけど……車をおりると二人の視線がこちらを向いた。
「マティーニ、あの日以来ですね。怪我の方は……?」
『おかげさまで。その件でお礼したいんだけど空いてる日ない?』
「……気にしなくていいですよ」
『いいから』
「では……3日後なら」
『3日後ね、わかった。じゃあ、いつものとこに10時で』
「わかりました。車は出しますので」
話しているうちにウォッカの表情が硬くなっていく。それでは、と言って去っていくバーボンの車を見送ってウォッカに向き直った。
『なんかあった?』
「……いえ」
『それならいいけど……ジン怒ってるかなぁ』
「マティーニ……兄貴に何かしたんですか?」
『したっていうか……悪気があった訳じゃないんだけど』
「まあ……バーボンの立ち入りが許可されたことに対して納得いってないみたいで……」
確かにジンとバーボンって反りが合ってない気がする。気に入らないのも当然か……それに加えて私が盗聴器を壊したことで更に怒ってるのかな。ベルモットがいないから、他になだめる人もいないし……しばらく大変かも、特にウォッカが。
『……あまり無理しちゃだめだよ』
「……はい」