第21章 秘密
あの日から2週間。右腕の痛みもほとんどなくなって、生活に支障のないくらいに回復した。大きな絆創膏は貼ってるけど。
組織内はまだスパイがいるんじゃないかってピリピリしてたけど、それも少しずつ落ち着いてきた。
前に怪我した時と同じようにメンバーが顔を見せてくれた。
「ったく……もっと気をつけろ」
『……ごめん』
中でもアイリッシュは会う約束をしていたのもあって、盛大にため息をつかれた。
「またしばらく来れねえけど……次は怪我すんなよ」
『うん、気をつける』
「まあ、左手で撃つ練習するいい機会だろ」
『そうする』
「無理はすんなよ……またな」
いつもの様に私の頭をポンポンと叩いて、アイリッシュは部屋を出ていった。
『え、嘘、帰ってこないの?!』
「本業の方が忙しくなるのよ」
『……』
最近、ベルモットは私用でイギリスに行くと言って空けることがある。加えて女優業なんて……一体どれだけ会えないんだろう。
「私がいなくても大丈夫でしょ?」
『任務はそうかもしれないけど……ショッピングとかしたいじゃない!』
「ふふっ……時々顔は出すつもりよ。都合が合えばその時にね」
『電話とかメールとか……してもいいの?』
「電話はすぐに出れるかわからないけど……折り返すようにはするから」
『……わかった』
「悪いわね。困ったことがあったら連絡して」
ヒラヒラと手を振って行ってしまったベルモット。もう、なんだか虚しさばかりがつのる。
『準備しよ……』
今日は明美に会うのだ。最近部屋を借りたらしく、今回はそこで。
プライベートなので一応変装する。メイクはずっと変えてないけど、ウィッグは新しくした。前のよりロングで少し癖のある茶髪。普段の私とは正反対のふわふわした感じ。
支度を整え、いつものバッグに二つ、場違いな物を入れて。
部屋を出るとちょうどウォッカがいた。
「マティーニ、お出かけですか?」
『そう……ちょっと……』
「あの女に会うんだろ」
横から聞こえてきたジンの声は怒気をはらんでいる。
『そうだけど。この間会えなかったから』
「ちょうどいいじゃねえか……探りを入れてこい」
『……わかった。あまり期待しないでよ』
明美が警戒されるのは当たり前。
だから、私が守る……危険から遠ざけないと。
明美は絶対死なせない。