第18章 何も聞かないで※
アジトに戻り自室のドアを開ける。
「遅い」
『……人の部屋でくつろぎすぎじゃない?』
タバコを片手に、グラスでお酒を飲むジン。シャワーも勝手に浴びたらしい。
『自分の部屋あるじゃない』
「物がねえんだよ」
『すぐ揃えられるでしょ……』
ホテルを転々としていたからそれには納得できるんだけど、金銭的な余裕はあるはずだし、物を揃えるくらい……。
「しばらく世話になる」
『……は?』
「んだよ、悪いか?」
『だったら尚更自分の部屋……』
そこまで言って気づいた。ジンが飲んでるお酒とタバコ……
『あ、それ!私が飲むつもりだったやつ!しかもタバコも!』
「……うるせぇ」
『ひどい!楽しみにしてたのに!』
「別のやつ買ってやるよ……」
『絶対だからね!』
ムッとしながらライフルをバッグから出した。使ってないけど手入れはしたい。
ふと、先程の光景が頭をよぎる。再び涙が出そうになるけどジンの前で泣くわけにはいかない。ギュッと目を瞑り小さく息を吐く。そのまま手入れを始める。
「……使ってねえだろ、それ」
『そうだけど……1回出してはいるから』
顔を向けずに言って手を動かす。明日射撃場行こうかな……。
「本当にあいつが殺したんだよな?」
『……そう報告あったでしょ』
素っ気なく答えた。気を抜いたら駄目だ。涙が出そうだし、声は震えそうだし……。
部屋の空気に緊張感が走った。
思考を振り払うように黙々と手を動かす。撃ってはいないのでそんなに手間もかからず終わってしまう。
ジンの方を見ずに立ち上がり、バスルームへ向かおうとした。ジンの横を通り抜ける時、腕を掴まれる。
『……シャワー浴びるから離して』
そう言っても手は離れそうにない。振りほどこうとすれば更に力強く掴まれる。
『いい加減に……』
言いかけたところでグッと引っ張られる。よろけて慌てて手をついたのはジンの肩の上。必然的に向き合って目が合う。ジンの表情は怒っているように見える。
『……離して』
「そんな顔してる理由が言えたらな」
目は若干腫れていたし、ひどい顔をしている自覚はある。でも、その理由なんて話したくない。
『普段と変わらないでしょ……疲れてるから……』
強い口調で言えばやっと離れていく手。しかし、その手は頭の後ろに回り、気づけば唇が重なっていた。