第1章 恋の訪れ
「母上!明日から恵の送り迎えをすることに決めました!」
見送りから戻るなり屋敷の外まで聞こえるのでは?と思う程の声量で話し出した杏寿郎は真っ直ぐに母を見つめる。
「杏寿郎、恵さんは病気ではなくただの擦り傷なのですよ。」
「分かっています!ですが、恵は小さくて、とても柔らかくて壊れてしまわないか心配なのです!千寿郎も小さくて愛らしいですが、恵はそれとはまた違うのです!」
「違うとはどのようにですか?」
「分かりません!ですが違うのです!」
杏寿郎は気づいていないようだが夕日とは違う色が頬を染めているのを見た瑠火は顔がほころぶのを隠すことなく優しい表情をみせ杏寿郎に話しかける。
「迎えに行くからと稽古が疎かになってはいけません。」
「はい!大丈夫です!!」
「転ぶのが心配だから抱き抱えて連れて来たりなどはいくら恵さんが幼いとはいえいけませんからね。」
「、、、、はい。」
擦り傷で布団に寝かされるくらいだから、もしやと思ったが瑠火の推測は当たったようだ。
少し残念そうに小さく返事をした杏寿郎に父以上の心配性だと苦笑いを浮かべた。