第1章 恋の訪れ
あまりにも分かりやすい息子の態度に微笑ましく思えたが、同時にこれでは自覚するのはいつになるんだろうと思ってしまう。
(杏寿郎、母は心配です。)
恵の祖母も杏寿郎の分かりやすい言動に瑠火と顔を見合わせて笑った。
皆で夕餉をとると辺りは薄暗くなっていた。
杏寿郎は特等席で見ようと恵を誘い離れに向かう。まだ少しぎこちないが昼間に比べ話せるようになってきた。
「恵こっちだ!ここからが1番綺麗なんだ!」
離れにはほとんど来たことがなかった恵は探検している気分。
縁側に互いの肩が触れる距離で座り空を見上げる。
『もうすぐだね!』
「楽しみだ!」
しばらくすると離れた所から口笛のような音に続いて破裂する音がした。少し遅れて眼前に広がる赤、黄、緑、青の色とりどりの花火。
食い入るように見つめていたがふと視線を感じて隣に座る杏寿郎をみるとこっちを見ていた。
「今日はすまなかった!」
それが昼間のことだと気づいたが、杏寿郎が怒っている態度ではないのと恵には分かっていた。
『大丈夫だよ!』
笑顔で答える。
「どうしていいか分からなくなってしまったんだ!いつもの恵とは違って見えて戸惑ってしまった。」
言葉の真意を読み取ることができず、少し不安になる。まだ幼い自分にこの浴衣は違和感でしかなかったのだろうか、、、
そんなことを考えてしまう。
「今日の恵は可愛らし過ぎる!!似合いすぎるのも困りものだ!まぁ、いつも恵は愛らしいが!!」
開き直ったように可愛いを連呼する杏寿郎に花火どころではなくなってしまった。
いつの間にか手を握られていて逃げられない。
一瞬、花火で照らされた杏寿郎の顔が赤く見えたような気がした。
「来年もここで花火をみよう。」
そう言われ、小さく頷く。
『うん。』
絶対だよ。という言葉の代わりに手を握り返した。
花火はいつの間にか終わっていて、花火より2人見つめ合う時間が長かったことに気づき恥ずかしさに悶えていた。