第1章 恋の訪れ
槇寿郎が慌ただしく書庫に向かったことに首をかしげていた杏寿郎だったが、すぐに恵の方に向き直り手当てが終わっても離れることなく付きっきりだった。
「恵!大丈夫か?痛むだろう!ほしいものがあれば遠慮なく言ってくれ!」
『杏くんありがとう。大丈夫だよ。』
出血はあったものの、深い傷はなく塗り薬を貰うだけで済んだのだが、何故か杏寿郎の部屋で、布団に寝かされ看病されている。
『あの、杏くん。ちょっと痛いけど病気じゃないから大丈夫だよ?』
せっかく杏寿郎に会えたというのに遊ぶこともできず布団に寝かされ、自分は元気だと訴えるも起き上がる事も許されない。
「駄目だ!痛むなら無理せず休んでいるんだ!」
むぅ、、、と頬を膨らますも心配してくれている事が嬉しくて頬があたたかくなる。
『このまま恵が寝ちゃったら杏くん稽古に行っちゃうの?』
「いや!父上は任務後の仮眠をとるはずだから今日はずっと恵の傍にいるぞ!」
『本当?嬉しい!じゃあ、杏くんもゴロンてしてお話ししよう?』
恵の申し出にキョトンとした顔をしたが、すぐにお日さまのような笑顔をみせた。
「うむ!いいぞ!沢山話そう!」
怪我の痛みなんて忘れるくらい楽しかった。
いつの間にか寝てしまったようで、様子を見にきた瑠火さまに起こされ、日暮れ前に槇寿郎さまが家まで送ると言い帰っていった。
自分も一緒にと杏寿郎も父に申し出たが、怪我の経緯を話さねば、と杏寿郎には門前までの見送りしか許されなかった。
「恵!父上がいれば安心だ!明日は俺が迎えにいくまで家にいるように!約束だ!」
『うん。杏くんがお迎え来てくれるのちゃんと待ってるね!』
名残惜しそうにギリギリまで繋いだ手をゆっくりと離すと、少し寂しそうにする恵の頭を優しく撫でる杏寿郎。
煉獄家の門を背に歩きだした父と恵を見えなくなるまで見送り、杏寿郎は母と弟がいる部屋へ向かった。