第1章 恋の訪れ
辺りが薄暗くなり畑仕事をしている者も帰路につきめっきり人通りが少なくなった道を歩く。
『槇寿郎さま!この道を曲がると恵の家です!』
「あぁ、焦らずともすぐ着くだろ、それと足元に気をつけろ」
父と歩くというのはこのようなものだろうかと思い巡らし、恵には普段通いなれた道が特別なものに思えてきた。
門前に祖母が見え嬉しさから駆け出す。
『お祖母ちゃーん、ただいま!』
「恵!こんなに遅くまで何を、、なんだいその怪我!早く家にお入り!」
いつもより遅い帰りに加え、怪我している姿が目に入るなり青ざめ取り乱した祖母にビクッと肩を震わせた恵の頭に手を置き乱雑に撫でる槇寿郎。
まるで大丈夫だと言われたような気がして身体の力が抜ける。
そんな恵の背を槇寿郎は軽く押し一足先に家の中に入って行くのを確認して口を開く。
「この先の屋敷に住む煉獄槇寿郎と申します。林で転んでいたのを見つけ家で手当てをさせてもらっていた。うちの愚息と以前から親しいようでこのような時間までゆっくりさせてしまった。心配をかけてしまい面目ない。」
「そうでしたか、恵がご迷惑を。」
深く頭を下げるがその表情には動揺が見てとれた。
「すまんが、少し時間をもらえるだろうか?」
「家の中でも話しましょう、此処でする話しではないでしょう。」
これから槇寿郎が話さんとすることに気づいているのか、静かに頷き家の中へ促した。