第1章 恋の訪れ
槇寿郎は縁側にドカッと座り、妻の方に身体を向ける。
「なぁ瑠火、あの2人どう思う?」
「どうとは?」
多少の含みを持たせた返事をしつつ、視線を息子達から夫へと移動させた。
「杏寿郎はあの通りいつも稽古が終われば恵にべったりだが、最近はそれ以上に恵の杏寿郎への視線が気になってだな、、、」
「気付かれていたのですね。確かに恵さんは杏寿郎と一緒にいると胸がわくわくすると嬉しそうに話されていました。」
「瑠火!それは、、」
「ええ、まだ自覚はしていないようですが、私たちは静かに見守りましょう。」
瑠火は、先程恵が活けてくれた花を見つめた。
まるで、今の恵にぴったりの花だと思う。
紫君子蘭
「恋の訪れ、ですか。」
これから沢山の乗り越えなければいけない、受け止めるべきことが待ち受けている2人、せめてもう少し、穏やかな時を過ごせるようにと願わずにはいられない瑠火と槇寿郎だった。