第1章 恋の訪れ
いつからなんだろう、、、物心ついた頃には彼の家にいるのが当たり前だった。
私が遊びに行くと彼はいつもお父様に稽古をつけてもらっていた。
稽古をしている彼を見るのが好きだった。
ただ見ているだけなのに楽しくて、退屈なんてしなかった。
真っ直ぐに剣を振るう彼を見ていると、時間なんてあっという間。
梅雨も明け、暑くなってきた頃、今日もまた煉獄家の門をくぐる。
『こんにちはー!瑠火さま!おじゃまします!』
「こんにちは、恵さん」
お布団から身体を起こして稽古を見ている、彼のお母様。
体調を崩しているらしくお部屋で療養していることが多いの。
お布団の足元には杏くんの弟の千ちゃんが寝ていた。
瑠火さまが元気になるようにと、煉獄家に来る時は、綺麗なお花を摘んできたり、天気が悪い時は折り鶴を贈る。
『瑠火さま!休憩の時に杏くんと一緒にラムネを飲みたくて持ってきたの。冷しておいていいですか?』
「いいですよ。」
桶に水をはり、ラムネを入れて瑠火さまの隣で杏くんの稽古を見つめる。
「恵さん、退屈しませんか?」
『ぜんぜん!稽古してる杏くん見てるとわくわくするの!』
「わくわく、ですか?」
瑠火さまが少し微笑みながら尋ねる。
『はい!真剣な杏くんも、楽しそうな杏くんも、見てるだけで恵はココがわくわくするんです!』
そう言って両手で胸を押さえる。
恵の見せる表情から瑠火は別な感情を感じ取ったが言葉にはせず、そうですかと返事をしようと恵に視線を戻すと、視界が紫色に染まった。
『頑張ってお世話したんです!綺麗に咲いたから瑠火さまに見せたくて!』
「紫君子蘭ですね。とても綺麗、ありがとうございます。」
花瓶に水を入れ花を活けると、休憩になった杏くんがこっち走ってきた。
「恵!来ていたのか!」
『杏くん、お疲れさま!恵ね、一緒にラムネ飲みたくて持ってきたの!半分こしよ!』
「ありがとう!早速飲もう!」
『うん!』
お日さまみたいな笑顔と、優しく頭を撫でられるとたまらず嬉しくて頬っぺたがポカポカする。
冷してあるラムネが置いてある所まで手を繋ぎ歩く。
そんな2人後ろ姿を杏寿郎の両親である槇寿郎と瑠火は静かに見守っていた。