第3章 無限
夕方になり
隠の手によって運ばれてくる杏寿郎
千寿郎は大声をあげて泣いていた
部屋に寝かされる杏寿郎は本当に寝ているように穏やかな顔をしている
闘いの最中に亡くなったとは思えなかった
ほのかは部屋の入り口で立っていることしかできない
目の前が霞んで杏寿郎の顔がはっきりと見えなかった
今にも起き上がりそうな彼を見つめるのみ
漸く動いた体は杏寿郎の隣に座る
そっと頬を撫でれば彼は冷たくなっていて、ほのかの知る温もりが感じれないことにもう目を覚さないことを知る
途端に涙が溢れ出る
「杏寿郎ぉ...っ」
ほのかは杏寿郎の胸元に倒れ込み泣いた
不死川はそれを見守ることしかできない
今はなんの言葉もかけることができなかった
触れてやることさえ、できない
悔しくなり己の拳を握りしめる
爪が食い込み血が滲んだ
一晩中ほのかは杏寿郎から離れようとはしなかった
その間ずっと不死川は部屋の隅に座って見守り続けた
翌日
ひっそりと葬儀が行われた
悲しみに打ちひしがれる
杏寿郎は穏やかに目を閉じている
千寿郎の啜り泣く声が聞こえる
ほのかは動かない杏寿郎をじっと見つめる
泣くこともなく、ただ見ているだけ
葬儀が終わり遺骨になってしまった杏寿郎
もうあの笑顔が見れない
もうあの元気な声が聞けない
もう...優しく抱きしめてくれない
ほのかは白い骨箱をぎゅっと抱きしめた
温もりもなにもない箱をただ抱きしめる