第17章 淡く危うく
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「こりゃあ酷いよ、治癒しても完治に一週間はかかる」
「はあ…そうですか」
相澤先生とリカバリーガールが話すのを横目に、俺は幻想の様子を見守っていた。
ベッドに寝かされた幻想は手当てをされ、疲労で眠ってしまっていた。
目の下には酷いクマがある。
眠れていないのか?どうして…
幻想のところにはもう何も現れていないはずなのに。
とても嫌な予感がした。
「おい心操、俺とばあさんは一度席を外すから、幻想を見ててくれ」
そう肩を叩かれ、頷くと二人は保健室を出て行ってしまった。
静かになった保健室で視線を幻想に戻すと、
やはり幻想のクマに目がいく。
「なんで…なにも言ってくれないんだよ」
自分の不甲斐なさに俺の身体は強張っていく。
せっかく綺麗な顔なのにな…
ふと幻想の頬に優しく触れると、ピクリと幻想が動いた。
うわっ、起こしたか
焦っていると薄っすらと幻想の瞼が開いた。
「あれ…ここ…、え…心操?」
「…授業中怪我したから、ここ保健室」
そう言うと幻想は自分の脚を見て、すぐに悔しそうな顔をした。
「馬鹿だよね…」
そう言って幻想は自嘲した。
その顔を見て心臓が締め付けられる。
その顔は卑屈になる俺によく似ていた。
成長できずに焦っている俺の顔に…
そんなことないよ幻想。
お前は強くて、優しくて、本当に努力家だよ。
なのにどうして、そんなに焦るんだ。
「幻想…お前また何かあったんじゃないのか」
そう聞くと幻想は驚いて俺の顔を見る。
いつも通り透き通るような綺麗な目だ。
「なんにもないよ」
取り繕ったその顔には不安がにじみ出ている。
幻想、お前は嘘が本当に下手だよ。
「お前なんでそんなに焦ってんだよ、お前だって誰かを救うためにヒーロー目指してんだろ」
そう俺が聞くと幻想は黙って、考え事をしているようだった。
しかし、何だか様子がおかしい。
呼吸が徐々に荒くなり、視線も定まっていないようだった。
「おい、おい大丈夫かよ」
そう声をかけても返答はなく、幻想の額には汗がにじむ。
「…はッ…はッ…しんそッ…みないッ…で…」
絞りだした声でそう言って、幻想の呼吸は急激に荒くなっていく。