第13章 知ってしまう
ゆっくりと不自然じゃない程度に身体をずらし、目線だけ幻想の見ていた方へ向ける。
そこには確かに黒い服の、男らしき人物がこちらを覗いていた。
ああ、俺はなんて呑気だったんだ。
幻想はこんなに怖い思いをしていたんだ。
現状を理解すると同時に、
そんな自分が恥ずかしくなった。
「状況は分かったよ、一緒に帰ろう」
そう言うと幻想は安心からなのかぽろぽろと泣いていた。
俺はその様子を見て名前も分からないあいつに怒りが湧いてきた。
あいつの顔が見たい。
本当にストーカーで、最近の幻想の不調の原因なら捕まえて殴ってやりたい。
そう考えたが、目の前の幻想が俺を冷静にさせた。
ああ、今はこいつを守らないと。
「幻想と話すふりをして俺が後ろを確認するから、幻想は普通に俺の横にいて。不自然にならないように歩いて寮まで行こう」
そう言うと幻想は頷いた。
俺は幻想と話をするふりをしながら後ろを確認するが、追ってくる様子はなかった。
幻想は歩きながら時々俺の顔を見た。
その顔は酷く不安そうで、俺が「大丈夫」と言うと視線を戻した。
きっと幻想はこいつを怖がっていたんだ。
そう理解した。
…でも、雄英のセキュリティは万全なはず。
どうして幻想は寮で視線を感じたんだ?
学校の関係者か、特殊な個性でもないと…
そう考えていると幻想が俺の袖を軽く引いた。
「心操、着いたよ。…ありがとう」
「ああ、よかった。じゃあ職員室行こう、相澤先生に報告しないと」
そう言うと幻想は横に首を振った。
「いやなんでだよ、ストーカーに合ったんだよ?先生たちに何とかしてもらった方がいいよ」
「……」
俺が説得しようとしても、幻想は納得しない。
なんでだよ、これが続いたらお前はまたつらい思いが続くのに。