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嘘つきのヒーロー

第3章 幻想叶の個性


時間が経つにつれ、フィクションは現実になる。
言葉にできない感情は行き場を失っていた。




学校へも行かず、誰にも会わなかった
ただ、もう一度父と母に会いたい。


死んでしまいたいと考えるようになっていた。






しかし、そんな毎日に変化が訪れる。


あの事件からしばらくして、
あの時私が手を引いた女の子とその両親が私に会いに来たのだ。



「あの時はうちの娘を救っていただき、本当にありがとうございました…」

その子の母親は涙ながらにお礼を言い、父親も悲しい顔で深くお辞儀をした。



それを見ても何だか実感が沸かない。
ぼうっとそれを見ていると、祖母が私に声をかける。



「叶ちゃん、せっかくわざわざ来てくれたんだから…」

「いいんですよ、……だって叶さんのお父様方は…」


そう言ってその子の父親は申し訳なさそうな顔をした。



ああ、二人は死んだのだ。
もう会えないんだ。



そう思うと涙が零れる
すっかり疲れ切った頭でも、泣くことはできるみたいだ。

そんな私を見て大人たちは何とも言えない深刻な顔をした。




すると、女の子が近寄り、私を優しく抱きしめる。



「おねいちゃん助けてくれてありがとう」


その声はまだ幼く、抱きしめられた腕はあまりにか細い。
女の子からは何だか、甘くいい匂いがした。




ああ、温かい。


そう思っていると女の子は喋りだす



「私ね、ヒーローになるの、ヒーローになってね、叶おねいちゃんみたいに誰かを助けるの」

そう言って私を強く抱きしめた。


「私…みたいに?」


…私はヒーローなんかじゃない。
そんな資格ない。


目が覚めてから何度も思った、

もし女の子じゃなく、両親の手を引いていたら。

そしたら二人は…


私の心はとても汚い。






「助けてくれてありがとう」

その声にハッとする。
私を抱きしめる女の子の身体に手を添えると、体温が伝わってくる。



ああ、この子はこんなに温かい。
生きてるんだ。




小さい身体を抱きしめていると、
色々な感情がゆっくりと溶かされていくようだった。



「うん、……うん、よかった」

そう言って女の子を両手で抱きしめると、不思議と涙が止まらなかった。
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