第3章 幻想叶の個性
【幻想叶side】
『記憶を改ざんする』
そんな個性を持ったせいで私は幼い頃から他人に目を見て貰えなかった。
当たり前だ、こんな個性誰だって怖い
目を見ただけで自分の記憶を侵されるなんて…
誰も私の目を見てくれない。私は個性を使う気などないのに
誰も私を信じてくれない。
物心がつき、周りと自分の差を理解するにつれ
私の心は塞ぎこんでいった。
だけど、父と母だけは私を大切にしてくれた。
私の目を見て、笑って。
「私が世界一大切」だと
私を撫でるその手は、いつだって私を守ってくれた。
____________
こんな個性でも大切にしてくれる人がいる。
私の目を見てくれる人がいる。
あの時の私の世界は家族がすべてだった。
しかし、終わりは驚くほど呆気ない。
休日、たまたま訪れていたショッピングモールで事件は起きた。
連休中の人で溢れかえる中、突然の爆発と大量の煙。
混乱する人々で辺りには叫び声が響いていた。
後からそれは敵(ヴィラン)の無差別殺人決行によるものだと分かった。
一度目の爆発で両親の少し先を歩いていた私は爆風で地面に転んでしまった。
頭を打ちながらもなんとか身体を起こすと背後から声がした。
「叶!大丈夫か!」
振り返るとそこには怪我を負っている母と、それを介抱する父。
そのすぐ手前に親からはぐれたのか、泣いている小さい女の子がいた。
安心する間もなく、遠くから声がする
「逃げろぉぉぉッッ!!!」
尋常ではないその声に、私は思わず両親の目の前の女の子の手を引いた。
そこから先は記憶がない。
目が覚めたときには病院で、私は二週間起きなかったのだと聞かされた。
二度目の爆風に呑まれ、意識を失っていたという。
祖母の迎えで家に帰ると父と母の骨壺が置いてあり、
賑やかだった家は嘘みたいに静かだった。
いつも優しく、時には厳しかった父がいなくなった。
私を甘やかして抱きしめてくれた母もいなくなった。
私に突き付けられた現実は、まるで胡散臭いドラマでも見ているように他人事に感じていた。
しかし、時間は確かに二人がこの世にいないことを教えてくれる。