第4章 記憶
「……生きて…たんだな…よかっ…た…」
男は私に手を伸ばそうとしてそのまま力尽きた
『え…?』
私は男に駆け寄る
『ねえ、どういう事…?答えてよ…ねえ…』
涙が止まらない
どうして?私はこの男に死んで欲しくないと思って…
『っ…』
ふと男の手を見ると、山吹の枝を握っているようだった
私はその枝に触れようとした
バチンっ
『……あ…』
すごい衝撃と共に手が弾かれる
それと同時だった
私の頭に男の記憶が流れてきた
ー「水木が…サクラと共に失踪した…?」
ー「諦められるかよ…っ」
ー「必ず見つけてやるからな…サクラ」
ー「リクオ、お前にはな姉貴がいたんだ」
ー「いつか、親子揃って…」
『有行…』
「どうしたの?」
『この人は…この男の人は…私の……』
「そうだよ。君は…奴良組の総大将、奴良鯉伴の子どもだよ」
その名前を聞いたと同時に何かが弾ける音がした
少し頭がぼうっとする
目の前の景色が歪む
私はそのまま倒れてしまったらしい
目を覚ました時には葵城に戻ってきていた
「あ、目覚めた?」
『有行…それに、吉平さん』
「奴良鯉伴に会ったそうだな」
吉平さんが私に尋ねてきた
『はい、会いました…それに…』
「記憶の封印、解けちゃったみたいだね」
有行がそう言った
『封印…?どういうこと?』
「お前が葵城に来た日…まだ幼かったお前の記憶を封じ、御門院家の陰陽師として育て上げろとある御方から命令が下った。
だからお前の記憶はこの数百年間、封じられていた」
『それを命じたのは…お母さん…ですよね。
私の母である…安倍水木…』
「そうだ。そしてお前の記憶の封印を解く鍵は…奴良鯉伴に会うこと、だ」
そう告げられても、吉平さん達を恨もうとは思わなかった
『…私は…』
「ねえサクラ、サクラに選択肢をあげるよ」
『え…?』
「一つは、このまま御門院家に残ってボク達とずーっと暮らすこと。
もう一つは…時が来ればこちら側に戻ってくることを約束して、一時的に奴良組へ帰るか。
さあ、どっちがいい?」