第4章 記憶
「羽衣狐という妖を知っているか」
『羽衣狐って…晴明様のお母上ですよね?』
「そうだ。」
『そのお方が…どうしたんですか?』
「…近々、復活なされる時期でな…その為の用意が必要となってくる」
『はあ…』
「用意はこちらで行うが…復活される際の監視役としてお前と有行を任命しようと思っているのだが、どうだ?」
『…監視役ですよね?…やります』
「そうか、助かる。さて、今日はもう遅い。ゆっくり休むといい」
そう言って吉平さんは部屋から出ていった
いつの間にか頭痛は治っていて、私はぐっすりと眠ることができた
それから数日後…
「おはよ、サクラ」
『おはよう、有行』
今日は羽衣狐を復活させる日だ
失敗は許されない
私と有行は真っ白な狩衣を身に纏っていた
もう既に羽衣狐の器は外にいるらしい
私達は羽衣狐の器の元へ向かった
『…あれ、誰かしら』
「?誰だろうね」
そう言った有行はちらりと私のことを見ていた
目の前にいるのは羽衣狐の器となる女の子と…五歳くらいの男の子、そして黒髪の男の人だった
「さて、そろそろかな」
有行のその言葉と同時に女の子は黒髪の男の人のことを刀で刺した
それが合図だった
女の子に羽衣狐が入り込んでいく
その様子を見ていた時だった
つぅ…と頬を伝う涙
『え…?』
なんで?
『何で…私、泣いてるの?』
「…大丈夫?サクラ」
『ねえ有行、あの男の人は誰?私の知っている人なの?』
「……そうだね」
有行の言葉に私は驚きを隠せなかった
『どういう…こと?…私は…あの男の人のことを忘れてる…?』
「サクラ、今は羽衣狐の回収が先だよ。」
『ええ、わかってるわ』
私と有行、そして私達に同行している山ン本五郎左衛門とか言うやつの三人で羽衣狐を迎えに行く
その時に男の傍を通ることは必須だった
『…っ……』
ボロポロとこぼれる涙
どうして?何で私は泣いてるの?
もう男の命は長くないだろう
そんな時、男と目が合った
「っ……サクラ…」
『え…?』
今、この男は…私の名前を呼んだの…?
どうして?
なぜこの男は私のことを知っているの…?