第8章 始まりの始まり
田中から汚れたジャージを袋ごと受け取ったはとりあえず濯ぐだけでも、と思い水道へ向かった。
『あった』
外に設置された雑巾などを濯ぐ用の深い水道を見つけて、よかったと思い腰を落とす。
するとチャリンという音がの耳に入った。
振り返ると、足元に100円玉が転がってきていた。
「すみません」
『あ、いえ』
100円を拾い上げたが一度立ち上がって、歩いてきた人物にそれを渡した。
「烏野...」
『え?あ、はい。烏野高校バレー部1年の金烏です。
バレー部の方ですか?』
「はい。今日はよろしくお願いします。1年の国見です。」
気だるそうな目とセンターで分けられた髪型が印象的な青年はにそう挨拶した。
「...マネージャー?」
『へ?ああ、まあそんなとこです!』
「へえ。あ、俺はじゃあこれで」
『待って!』
適当な会話をしてそそくさと戻ろうとする国見をは止めた。
『左手首、痛めてるんですか?』
「...え?
なんで、分かったんですか」
今の一瞬で分かるはずない、と思った国見が驚いた顔でを見る。
『今お金受け取る時に、右手に持ってた財布とジャージを左手で一瞬持って、わざわざ右の脇に抱え直したじゃないですか。そのまま左手で持った方が早いのに。
それから左手首をあまり曲げないようにしてる瞬間がほんの一瞬だったけど何度か』
「へえ、金烏さんすごいですね」
この一瞬から正しい事実を分析し、引き出したに国見がそう言った。
『これ湿布、よかったらどうぞ!あと同じ1年生なんだし、敬語はなしで!』
ニカッと笑いながら湿布を差し出すにつられるようにほんの少しだけ国見の表情が和らいだ。
「じゃあありがたく使わせてもらうよ。ありがとう、金烏さん」
そう国見は言うと再び自動販売機の方へ歩き出し、も田中のジャージが入った袋に手をかけた。